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2017.02.28 Tuesday

絨毯のヨコ糸は見えるのか?

 

「茶色の経糸でスイッチが入った」なんて書いていましたが、

ひょんなことから「台湾にスイッチが入り」、絨毯は放置状態になってしまってゴメンなさい〜。

 

気分を切り替え、経糸じゃなく「絨毯の緯糸」について少しばかり書きます。

 

* * *

 

まず質問。

「あなたは絨毯のヨコ糸を見たことがありますか?」

 

前回ご紹介したハゲハゲ絨毯なら、パイル糸がすっかり取れてしまっている部分があるので

タテ糸もヨコ糸もはっきり見えます。

 

しかし、堅気の市民生活を送られている日本のマジョリティーの方で

絨毯のヨコ糸を見たことがある人は少ないんじゃないでしょうか?

 

キリムは「タテ糸とヨコ糸」で構成されていて、

つづれ織りのキリムは「ヨコ糸が主役!」

表に現れているのは、ほとんどがヨコ糸です。

 

一方、絨毯は「タテ糸とヨコ糸とパイル糸」で構成されていて、

パイル織の絨毯は「パイル糸が主役!」

表に現れているのは、ほとんどがパイル糸です。

 

キリムも絨毯も、「フリンジの部分がタテ糸」なので

みなさん、タテ糸は見たことがあるはずです。

 

でも絨毯のヨコ糸は、パイル糸に埋もれてしまって、ほとんど見えません。

 

特に都市工房で織られたペルシャ絨毯やトルコのヘレケ絨毯は、

強くデプレスがかけられていますから(「ダブルウェフト」とも表現される)、

ヨコ糸は奥に存在するものの、表にはまず現れていないと思います。

 

でも、部族絨毯村の絨毯はほとんどデプレスのないフラットな織り構造ですから、

絨毯のをまじまじ〜っと見つめると、ヨコ糸が見えてきます。

 

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これも一応「いわゆるベシール絨毯」。

 

結構ゆがんでいて、遊牧生活を送るグループのものかもしれません。

エルサリ・トルクメンとも感じが違うので、ウズベク族のものかな?

 

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スター・キッズの幼稚園〜! って感じで、個人的にはけっこう気に入っているんですけど。

 

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ボーダーのクロス・モチーフや「スター・キッズ」の形がぜんぶ違っているところがラブリー!

 

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古いのでけっこうこなれてます。

タテ糸は、ベシール絨毯おなじみのヤギの糸。

 

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さて、絨毯の裏側です。

茜、インディゴ、黄、茶、アイボリーのパイル糸が、まず目に飛びこんできますが、

パイル糸とパイル糸の間からのぞく茶色の線ーーそれがヨコ糸です!

 

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これはアフシャールのサドルバッグの裏側の写真ですが、

矢印で "weft" と示されている部分がヨコ糸。

 

このピースは、一段あたりヨコ糸を左右に往復させ、2本のヨコ糸が使われていますが、、、

 

 

このトルコのヤストゥックは、

一段あたりヨコ糸を左右に2往復または3往復させているため、

4本または6本のヨコ糸が使われています。

 

ヨコ糸がたくさん使われているので、ぱっと見るだけでヨコ糸の存在がわかりますね。

 

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このように、部族絨毯や村の絨毯は、裏側を見るとヨコ糸の存在がわかりますが、

このベシール絨毯のように、表側もパイルがかなりすり減っていると、

うっすらと茶色い横糸が見えています。

 

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* * *

 

余談ですが、パイルたっぷりの絨毯でも

色のついたタテ糸やヨコ糸を使ったものは、

全体の色調がどことなく違って見えます。

 

以前、茶色いタテ糸を使ったムットのキリムを持っていました。

カラシ色のヨコ糸のキリムでしたが、なんとなく茶色っぽく見えました。

 

ヨコ糸がすり減っていたわけではないのですが、

表に出ていないタテ糸でも、やっぱりなんとなく色調に影響するんだな、と思ったことでした。

 

わたしが好きなベシール絨毯は、なんといっても茜色に特徴があります。

他の絨毯の茜色とは、どこか、ちがう。

 

もしかしたら、タテ糸やヨコ糸に茶色の糸が使われているため、

パイル糸の茜に、どこか趣きを添えているのかもしれません。

 

2017.02.19 Sunday

茶色の経糸3 緯糸も茶色のベシールチュバル

経糸はフリンジという形で表に現れるのですぐ分かりますが、絨毯の緯糸はパイルの間に埋没しているので、なかなか確認しづらいですね。



「敬老の日とくしゅう〜!」で登場した長老のみなさま。

ハゲハゲ絨毯はパイルが無くなっているので、ふだん埋没している緯糸が現れて、緯糸観察にはうってつけです。
上がいわゆるベシール、下二枚がコーカサス。




コーカサスのヒゲじいは経糸も緯糸もアイボリーのウール。



コーカサスの梅干しばあちゃんは、経糸がアイボリー、緯糸はゴールドの細めの糸。



ベシール、これは恐らくエルサリ・トルクメンのチュバルですが、経糸は柔らかめのヤギ毛のようです。



写真の下方にほつれた緯糸が写っていますが、薄茶色のウールのようです。ほつれた先を見ると二本を撚り合せているのが分かりますね。




セルベッジも緩くなっていて、糸の感じがつかめます。

2017.02.03 Friday

茶色の経糸2 BESHIRもしくはアムダリア中流 CLOUD BAND

 

ヤギ毛の経糸で、久しぶりにスイッチが入ったようなので何回か連載します。

 

日本で「ベシール絨毯」といっても知っている人はとても少ないと思いますが、

前回ご紹介した大型チュバルの表皮のように、

トルクメン族エルサリ支族、ウズベク族、アムダリア川中流周辺の村人などの複数のグループによって織られた

いわゆる「ベシール絨毯」は

欧米の絨毯愛好家たちに高く評価されている絨毯のひとつです。

 

当ブログ初公開になりますが、

"so called Beshir" (いわゆるベシール)もしくは "Middle Amu Darya" (アムダリア中流)の

Cloud Band Carpet (クラウドバンド=雲龍文様の絨毯)です。

 

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大体の大きさは、147✖️265cm。

大きな絨毯は保管が大変なので、わたしが集めているのは小ぶりなラグが中心ですが、これは例外。

絨毯買物中毒の最盛期、eBayでデッドヒートのうえ競り落としました。

ベシール絨毯は欧米のラグ・マニアに絶大な人気があるため、こっちもハチマキ締めてかかりました。ぴのこ:)

 

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蛇もしくは雲のように見える雲龍文様は、中国から伝わった説が主流のようですが、

「チューリップ模様の変形ではないか」などと主張する人もいます。

 

で、なぜこの絨毯を出したかといえば、やはり経糸にヤギ毛が使われているからです。

 

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羊毛とは違うことがなんとなく分かりますか?

 

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ヤギ毛の経糸を使うことにより、絨毯の耐久性が増すようです。

 

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パイル糸に使われている茶色の糸は羊毛のようですが、

大型タイプのベシール絨毯のパイル糸は、ちょっとごわっとしたウールが使われることが多いようです。

(ベシール絨毯にはいくつかのタイプがあるので、柔らかい羊毛のものもあります)

 

ハードな使用に耐える絨毯のウールは、ソフトで滑らかな毛よりも、むしろ

この絨毯のようなごわっとした毛の方が向いているのではないかと、個人的には思っています。

 

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絨毯のサイズが大きいと、やっぱり迫力ありますね。

 

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茜とインディゴと黄色と、染めてない茶色の羊毛。

本当はこれに緑が加わると言うことないんですが、、、

 

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緑が使われているベシールのフラグメント

 

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Fine Arts Museums of San Francisco の1999年の図録から

 

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これも緑が使われたクラウドバンド・デザインのベシール絨毯

 

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こちらは「雲龍文様」というよりは「チューリップ模様の変形」と形容したほうがしっくりくるかも。

 

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以前ご紹介したトルクメン絨毯の本にもクラウドバンド・デザインの絨毯が載っています。

 

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説明文はこちら

 

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この本はわたしが持っているトルクメン本のなかで一番新しく、

それゆえトルクメン絨毯の一番新しい研究成果を反映しています。

 

説明文も「ベシール絨毯」という呼称を使わず、「アムダリア中流」としています。

 

図録の写真なのではっきりとはわかりませんが、この絨毯の経糸はヤギ毛ではなく羊毛のようです。

 

この本についての記事はこちらこちら

 

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絨毯の裏側の写真を見ればわかりますが、

織りはわずかにデプレスがかかる程度のフラットな織りですが、

経糸がヤギ毛であるため、実用に耐えると思います。

 

ただ「クラウドバンド・ベシール」という(自分だけが信仰している)ブランド力のため、

使いつぶす勇気はなく、巻いて大切に保管してあります。

我ながらバカだなあ、、、Docomo_kao8

 

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私のお宝、なんとか次世代に手渡したいものですが、

日本ではなぜ「インテリアの壁」を超える絨毯好きが増えないんでしょうか、、、ゆう★

 

 

 

2017.01.31 Tuesday

茶色の経糸1 羊毛&ヤギ毛

 

今回の丸山コレクションでは、ヤギ毛もしくは茶色の羊毛の経糸を使ったピースが目につきました。

そこで自分が持っている茶色の経糸の絨毯をあらためてチェック。

 

* * *

 

現在織られている絨毯のほとんどは、白い経糸が使われています。

 

デパートなどで売られている都市工房製作の絨毯は、経糸も緯糸もコットンを使ったものが主流のようです。

コットンの方がたわみが少なく織りやすいし、実用品として考えると耐久性にもすぐれています。

一方でイラン産のギャッベの経糸は、いまなお生成りのウールがほとんど。

また、シルクのペルシャ絨毯なら、経糸の材質もたいていはシルク。

いずれにしても、茶色の経糸は、新しい絨毯にはまず見られません。

 

うちのリビングのイージーチェアの下に敷いてあるのは

イラン北部に住むトルクメンの今出来の絨毯。

 

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文様はケプセギュルなので、トルクメンの中でもヨムートのものだと思われます。

 

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経糸は変哲もないマシンスパン(機械撚り)。

材質はウールのようですが、不自然な艶があって化繊との混紡かもしれません。

 

* * *

 

しかし古いヨムートのパイル織には、経糸に茶色の羊毛が使われることが多いようです。

茶色の羊の原毛そのままの色。

 

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この4枚はトルクメンのヨムートのもの。

 

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写真がうまく色を拾っていないけれど、チョコレート色。

テント内に吊るして使うチュバルの表。推定19世紀末。

 

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端の処理として内側に縫いこんであるので見えにくいけれど、経糸は茶色の羊毛。

 

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これもおそらく19世紀末くらいのチュバルの表。

下側の無地の部分をエレムと呼びますが、アブラッシュが出ていてこっくりしたブラウン。

 

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薄茶色の経糸で、上のチュバルよりもポワポワした柔らかな羊毛。

 

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こちらは少し時代を下ったものですが、絨毯の用途はよくわかりません。

セルベッジ(耳)やモチーフが可愛くて、優しい茶色が気に入っています。

欧米市場ではほとんど見かけない珍しいタイプのヨムート。

 

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この経糸もポワポワした薄茶色の羊毛。

 

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4枚並べた一番下のトルバ表皮だけは、白い羊毛を使っています。

これはパイル織りでなく、ソマック織りです(平織を織りながら斜めに糸を入れていく、刺繍のように見える技法)。

 

* * *

 

茶色の経糸といっても、羊毛だけではなく、ヤギ毛を使ったものもあります。

 

たとえばトルクメン絨毯にカテゴライズされるベシール絨毯は、経糸にヤギ毛を使うことが多いのです。

 

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上の4点に比べるとずいぶん大きいチュバルの表皮。

東南アジアからウズベキスタンに伝播したイカット文様の影響を受けた意匠と言われています。

 

ベシール絨毯はアフガニスタン北部からウズベキスタンにかけてのアムダリア川流域で織られていました。

トルクメンのエルサリ支族、ウズベク族、近隣に定住する村人など、いくつもの製作グループがあったようです。

これはたぶんエルサリのものでしょう。

 

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この経糸がヤギ毛。

羊毛に比べると固くまっすぐなので、糸を撚るのに苦労するはずです。

それでも水を弾き、虫に食われず、糸の強度が強いため、特定のグループの絨毯に使われました。

 

大型の古いベシール絨毯を個室に敷いていますが、

アンティークなのにヤギの経糸のせいか頑丈で、ガンガン掃除機をかけても大丈夫。

 

* * *

 

このほか、カシュガイ族の絨毯の経糸に、茶色の羊毛が使われたものがあります。

 

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リビングの壁に飾っている小型の絨毯。

やはり19世紀末ぐらいのものだと思われます。

 

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茶色の経糸といっても、アイボリーの糸と撚り合せて双糸にしたもの。

 

「カシュガイは経糸に生成りを好み、ルリ族やハムセ連合は茶色い経糸が多い」

という説を聞いたことがありますが、

この絨毯はまちがいなくカシュガイのもので、茶色の経糸が使われています。

 

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こちらも典型的なカシュガイの文様ですが、経糸は茶色を含めいろいろな糸が使われています。

 

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やはり茶色とアイボリーの双糸や、、、

 

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いろんなバリエーション。

 

* * *

 

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以前にもご紹介したけれど、わたしの「トライバルラグの原点」ともいえるピースがこれ。

部族絨毯に魅せられはじめたころに手に入れた、バルーチの袋の表皮。

このピースを見ていると、なんだかホッとするのです。

 

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経糸に茶色の羊毛やヤギ毛など、さまざまなものが使われていて、

それが美しい調和をつくりだしていると感じたんですね。

 

天然染料は色あせても、なお美しい。

大好きな、大好きな、ピースです。

 

2015.03.24 Tuesday

絨毯パイルの結び方など おさらい


「最近ブログの更新が滞って‥」といった記事を書いていたら、誤って消してしまった〜!
2時間かけて書いた内容がパア! なんということ〜!ゆう★

しかも今回は、かなりリキ入れて書いていたのに、がっくしです。
立ち直れないので、今回はポイントだけ書いて、また仕切り直すことにします。(泣)

基本的なノットの結び方には二つあって、
ひとつは「対称結び」(トルコ結び・ギョルデス結びとも呼ばれる)、
もうひとつは「非対称結び」(ペルシア結び・セネ結びとも呼ばれる)。
そして「非対称結び」には「左開き」と「右開き」があります。

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「対称結び」

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「非対称結び」。上が「左開き」、下が「右開き」。

これが「シンプルで基本的な織り方」

* * *

つぎに、絨毯の厚みを増し、より耐久性に富ませる織り方があり、
欧米の絨毯本では「縦糸に傾斜をつけた、デプレスのある」織り方と呼び、
日本の絨毯業者さんの一部は、それを「ダブルノット」と呼んでいるようです。

この織り方には、対称結びのものもあれば、非対称結びのものもあります。

「トルコ絨毯はダブルノット」という業者さんもいますが、
トルコ絨毯にはダブルノットのものもあれば、そうでない織り方のものもあり、
伝統的な村で織られるトルコ絨毯は、ほとんどが上の「シンプルで基本的な織り方」です。



対称結びで、ダブルノットのもの。
(この写真の大きさを必死で調整していて、誤って記事を消してしまった。え〜ん!)

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非対称結びで、ダブルノットのもの。
上の技法が、都市工房の絨毯でよく使われる織り方。

* * *

さて、前回のトルクメン絨毯でセルベッジの脇だけ「対称結び」にする技法、
マーラ・マレットさんの本に載っていました。
今回引用した写真はすべて彼女の本からです。

P3243138.JPG

基本は「非対称結び」なのに、端だけ「対称結び」。

ご自分で絨毯を織られるTさんによれば、

実際そうやって織られているもの多いようですね。絨毯を織る際両端のタテ糸は糸と糸の間の距離が広くなりがちです。
左右非対称ノットだとノットが横に広がってしまいますが、対象ノットなら結びつけた2本のタテ糸は良く閉まります。
多分端の何ノットかを左右対称ノットにするのはこれが理由と思います。またテケの左右非対称結びのやり方だと
左右対称ノットとの併用がやり易いこともあります。

とのことでした。
ただし、実際にテッケ族の女性に聞いたわけではないので「あくまでも推論」とのことです。

またトルクメンの支族であるサリークとヨムートには、次のような特殊な織り方もあるようです。

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同じ縦糸を2本のパイルが共有する織り方は、実際の絨毯では次のようになります。

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全体ではなく、一部に使われているようです。

* * *

ああ、それより、頑張って書いた記事を消したショックから立ち直れないわ‥‥

春も来たことだし、仕切り直して再スタートします!


 
2015.03.14 Saturday

Tekke Turkmen Engsi 特殊な技法


Jaf Kurd に限らず、部族絨毯には様々な織りの技法が使われているようです。

今回は「アレッ?」と思ったトルクメン絨毯の技法について。

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これは「Soulな絨毯」でも取り上げたトルクメン・テッケ支族のエンシと呼ばれるラグです。
コチニールと化学染料が同時に使われていることから、19世紀末から20世紀初めのものでないかと思われます。

アレッと思ったのは、左右両脇のセルベッジ(耳)から3段分が「対称結び」で織られているらしいこと。
私はそれほど織り技法に詳しいわけでもないので、今度「手仕事クイーン」にも確認していただこうと思っています。

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写真中央にセルベッジ、その左3段(赤茶)が「対称結び(トルコ結び)」に見えませんか?
糸の端が右下に流れているのでやや分かりにくいと思いますが、その左の茶色の段とは結び方が違うのです。

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もう一枚、似たような写真。
赤茶の3段は結び目がペタっとしていますが、その左側は結び目が見えないでしょう。
テッケ絨毯は基本的に「非対称結び(ペルシア結び)右開き」で織られており、
セルベッジ側の3段以外はすべて非対称結びです。

P3143130.JPG

「非対称結びの右開き」部分はこんな感じです。

P3143131.JPG

もう一枚、非対称結びの部分。
テッケの絨毯はもともとパイルを短く刈り込むので長くないのですが、
このピースは一定期間使われたこともあり、ここは最もパイルが短くなっていて、糸の流れがよく見えます。

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この文様は「キャンドルホルダー」などと呼ばれることもあるようですが、
実際の起源は、おそらくロウソクではなく「動物の角」が意匠化されたものではないかという気がします。
いずれにしてもこの文様はシャープでカッコよく、好きな文様の一つです。

P3143133.JPG

さてもう一度、対称結びの3段を確認しましょう。

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絨毯の裏側ですが、非対称結びの部分は「見慣れた感じ」なのに対し、
セルベッジ側の数段はボコっと盛り上がって、あまり見かけない裏側。
もしかしたら普通の対称結びではなく、特殊な対称結びかもしれません。

* * *

問題は「全体は非対称結びなのに、なぜセルベッジ脇部分だけを対称結びにしたのか」ということです。

以前、トルクメン絨毯の本をパラパラ見ていて、
「テッケ絨毯には端の部分に対称結びを採用したものがある」という文章を見た記憶があったので、
手持ちの本を調べてみたのですが、当該部分は発見できず。
今度その記事を見つけたら、またご報告しますね。

* * *

「非対称結び VS. 対称結び」については、ときどき
「ペルシャ絨毯のほうがエラい!」
「いや、トルコ絨毯のほうがエラい!」
みたいなサイトがあります。
(私としては、どちらもそれぞれの良さがあり、最終的には個人の好みだと思っています)

「ペルシャ結びのほうが緻密な文様を表現するのに優れている」というのはある意味では正しいと思いますが、
「トルコ結びのほうが、使えば使うほど締まっていくので丈夫」というのはどうでしょうか?

「ダブルノット」「シングルノット」という用語を使っているサイトがあって、
オフセットされた縦糸(デプレスの効いた)の絨毯の織り方を「ダブルノット」と呼ぶ業者さんもいるようです。

絨毯の商業圏はいくつもあって、商業圏によって使われる用語や絨毯の解釈はそれぞれ違うようなので
上記のような用語も「なるほどそういう呼び方もあるのか」と納得できます。
(欧米のディーラーとトルコやイランのディーラー、パキスタンやインドのディーラーではそれぞれ違っているようです)

でも、「トルコ結び=ダブルノット、ペルシア結び=シングルノット」と勘違いして
「トルコ結びのほうがペルシャ結びより丈夫」と書いているとすれば、それは誤解だと思います。

デプレスの効いた絨毯のほうが、そうでない絨毯よりも丈夫なのは間違いないと思いますが、
トルコ結び(対称結び)がペルシア結び(非対称結び)よりも丈夫だと思ったことはありません。

* * *

ただ、本題に戻って、上のような絨毯のセルベッジ側に「対称結び」があえて使われているというのは、
絨毯の「止め」の部分には「対称結び」のほうが安定性がある、と考えたグループがいた、ということかもしれません。

ただしテッケでもこのような技法が使われた絨毯はごく一部で、
ほとんどの絨毯は「非対称結びのみ」です。

「おまえ結局、ナニが言いたいの?!」って感じになっちゃいましたが、
部族絨毯の織り技法には、イロイロあるよ、ってことが言いたいのでした。

どーも、すいません。汗

 
2015.02.28 Saturday

Jaf Kurd の特殊な織り技法


今回は「ジャフ・クルド」と呼ばれるグループの珍しい技法について。

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これは以前も取り上げた袋物ですが、熟成した天然染料が魅力です。
このピースは室内で見るといまひとつなのですが、晴れた日に屋外で見るとギラギラと輝きます。
眺めていると、毛織物のなかに引き込まれて時間を忘れるほど。(笑)

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まあ、今回は絨毯織りの技法についての記事なので、色についてはもう止めます。

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パイルの結び方には「対称結び(トルコ結び)」と「非対称結び(ペルシャ結び)」の二種類がありますが、
ジャフ・クルドは「対称結び」です。
でもこの織りは「なんか普通の対称結びと違うなあ‥‥」という気がしていたのですが、
自分ではその理由がわかりませんでした。

ある日、Marla Mallett さんの "Woven Structures" を眺めていて、
「そうだったのか!」と納得。

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斜線をキリッと出すための特殊な技法が使われていたのです。

下の方の図を見ると、同じ一枚の毛織物のなかに傾斜度の違う斜線が使われ、
場所によって織り方を変えていることが分かります。

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こちらは普通の「対称結び(トルコ結び)」で、
それぞれのパイル糸が縦糸2本を使っています。

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袋のボーダー部分は、一般的な対称結びを使っています。

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ところがジャフ・クルドは上図のように、
一つのパイル糸が3本の縦糸を使ったり(左)、一本の縦糸を共有して使ったり(右)という
イレギュラーな織り方も併用しているのです。

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中央部分に使われている菱形文様の斜線が、この技法によって、よりピシッとした線になっています。

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絨毯の裏側はこうなっています。
「つぶつぶ2つで1ノット」のタイプですが、斜線部分を見ると、結ぶ縦糸をずらしていることがわかりますね。

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「タテヨコがきちんと並ぶ一般的な織りの部分」と、「敢えてずらした織りの部分」の接合部は上図のようになっているようです。



生成り色のオーダーよりが上が「一般的な織り」、
それより下が「敢えてずらした織り」になっています。

「部族絨毯=単純・簡単な絨毯」ではなく、実践から生まれた奥の深い技術を持っていることがわかりますね。



ドヤ顔! ピース
2015.02.18 Wednesday

絨毯のキホン 緯糸について


前回に引きつづき「絨毯のキホン」について、おさらいしてみたいと思います。
今回は絨毯の緯糸について。

日本にはまだまだ「キリムって何?」って思う方もたくさんおられますが、
そう尋ねられたら「パイルのない絨毯」と答えるのが無難なところでしょうか。
でも「パイルって何?」と突っ込まれたら困りますね。その場合は、
キリム=「ウールでできた色付きの綺麗なゴザ」みたいな答えもどうかな? なんて考えております。

キリム(平織り)と絨毯の違いは、
キリムが基本的に、縦糸と緯糸で構成されているのにたいし、
絨毯は、縦糸と緯糸とパイル糸の3種類で構成されています。

そしてほとんどのキリムは、緯糸が表面に現れますが、
絨毯はパイル糸が表面に現れて、緯糸はほとんど見えなくなります。
いわば、キリムで脚光を浴びる"主人公"は緯糸、絨毯の"主人公"はパイルということでしょうか。

それでも絨毯にとって緯糸は、なくてはならない縁の下の力持ち。
緯糸がどういう働きをしているのか、あらためて見ていくことにしましょう。

* * *

前回も引用した P.R.J.FORD "ORIENTAL CARPET DESIGN" から絨毯織りの工程です。

P2063021.JPG

(どこの国の写真なのか記載がないのですが、ここの織り手は男性です)
織り機に縦糸が張られており、織りはじめは「平織り」から始まります。

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縦糸にパイル糸を巻きつけていきます。
絨毯織りのおけいこ」でも書きましたが、「結ぶ」というより縦糸に巻きつけていく作業なので、
このままではパイル糸は非常に不安定な状態です。

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パイル糸が一列そろったところで緯糸を通します。
一往復(緯糸が2本)が標準的ですが、1本だけの場合や4本6本8本などのケースもあります。(後述)

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緯糸を通したら、ビーターで叩いて絨毯の組織をしっかり締まったものにします。
この作業を経てはじめて、パイル糸は絨毯に固定されるわけなので、とても重要な工程なのです。

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一段一段進むたびに、セルベッジ(絨毯の耳)も巻きつけていきます。

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根気強く作業を続けて、小さな絨毯ができました。

* * *

つまり、緯糸なしにパイルが固定されることはないわけですが、
できあがった絨毯を見ても、緯糸はほとんど見えることはありません。

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これはお気に入りのコーカサス絨毯で、パイルがかなり短くなっていますが、
緯糸が見えるレベルにまでは至っていません。
ちなみにコーカサス絨毯は、ほとんどが「対称結び(トルコ結び)」です。

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同じ絨毯の裏側です。
染められたパイル糸の間から少し緯糸がのぞいています。
面白いことに、上半分がオフホワイトの緯糸、下半分が茶色の緯糸です。

染料は貴重なものだし、染めるには手間もかかりますから、緯糸はふつう染めない原色の糸を使います。
ただし地域やグループによっては、染めた緯糸を使うケースもあり、
古いトルコ絨毯には、茜で染めた緯糸のものも結構あります。

また、遊牧民や村の古い絨毯の場合は、ウールの緯糸がほとんどなのですが、
19世紀末から20世紀初めのギョルデス絨毯は、コットンの緯糸が使われるのが一般的でした。
時代的にはまだウールの緯糸が主流だったはずなので、ギョルデスは珍しいケースです。

その後、絨毯が商品化されるにしたがって、縦糸や緯糸はコットンが主流になっていきます。
(なお、私は古い部族絨毯と村の絨毯についてのわずかな知識しかありませんので、
シルクのペルシャ絨毯やインド絨毯・パキスタン絨毯などについてはわかりません)

* * *

横糸の本数は2本(織り機を一往復)が一般的ですが、例外もあり、絨毯の裏を見ればそれがわかります。

緯糸が2本の場合

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前掲書より、バクティアリ族の絨毯。
バクティアリ族は早くに定住化したグループと遊牧を続けたグループに分かれますが、こちらは前者。

緯糸が1本の場合

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左の写真をみると、白糸が縦方向に見えるのがわかりますか?
緯糸が1本だと普段は見えない縦糸が見えるので、産地判別の根拠の一つになります。

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PETER F. STONE "ORIENTAL RUG REPAIR" より
絨毯裏側に縦糸が見えるハマダン絨毯。
ちなみに素材は、縦糸・緯糸がコットンで、パイルのみウール。

縦糸が4本以上の場合

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同書より、アナトリアのヤストゥック。
緯糸が4本の箇所もあれば6本の箇所もあるタイプ。
遊牧民や村の絨毯は、このように融通無碍なところがあります。
そもそも手紡ぎ糸は太い部分や細い部分があるので、臨機応変に対応するのはむしろ自然かも?

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MARLA MALLETT "WOVEN STRUCTURES" より、緯糸がなんと12本のアナトリア絨毯。

緯糸をたくさん入れると絨毯は曲がりやすくなります。
パイルが長いので、もしかしたら布団の役目をする絨毯かもしれません。
パイルが長い割に、そんなに重くはないようです。
移動を常とする遊牧生活では、毛織物は重くないことが重要になります。

ルリ族やカシュガイ族が布団として用いたオリジナルのギャッベは、この構造に近いと思われます。
現在のギャッベは欧米向きに商品化された堅牢な織り方なので非常に重く、オリジナルとはかなり違っています。



パイルがかなりなくなって白の縦糸と赤い緯糸が露出しているミラス絨毯。
緯糸が赤いせいか、パイルがなくなっても独特の風情があります。

縁の下の力持ちの緯糸が、100年以上の時を経て語りかけてきます。



 
2015.02.07 Saturday

ノットの数え方 アフガン・トルクメンの比較


前回ノットの数え方について少し書きましたが、もう少し説明したほうがいいかもしれません。

一般的な日本の消費者が買うのは、デパートや「ペルシャ絨毯」専門店で売っている絨毯だと思います。
そこでは「ノット数が多いものほど良質な絨毯」というセールス・トークもされているので、
絨毯を購入する場合、ノット数を気にされる方は多いのではないでしょうか。

デパートや「ペルシャ絨毯」専門店で売っている絨毯は、大多数が都市工房で織られた商品です。
都市工房で織られた絨毯のほとんどは、絨毯の裏の「つぶつぶの数=ノット数」なので、混乱することはまずありません。
また、日本でもファンの多いギャッベも、ほとんどが「つぶつぶの数=ノット数」です。
(日本で売られているギャッベは商品化されたもので、本来のギャッベとは織り方が違うのですが、この話はまたそのうちに)

ところが前回の記事に書いたように、絨毯裏側の「つぶつぶ2つで1ノット」の絨毯もあります。
というよりむしろ、こちらの織り方の方が起源は古く、トライバルラグのほとんどがそうです。

以前、「絨毯織りのおけいこで織ったコースターサイズの絨毯は後者の織り方です。
ミニ絨毯全体では、縦23目✖️横15目=345ノットになりますが、
絨毯裏側のつぶつぶはその倍の690あり、「つぶつぶ2つで1ノット」です。

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これは "ORIENTAL CARPET DESIGN" by P.R.J.Ford の P.21掲載のものです。

上の図は、都市工房の絨毯に一般的な織り方で、結び目にかなりの傾斜がついています。
緯糸の下にはつぶが1つしか出ておらず、もう一つは緯糸の上にあります。
絨毯の裏側(この図では下側)に現れているつぶ(3個)と、ノット数が一致します。

下の図は、トルクメンなど部族絨毯に一般的な織り方で、結び目が平らに並んでいます。
緯糸の下に6個のつぶが現れていますが、実際のノット数は3です。
この場合、裏側のつぶの数の半分がノット数ということになります。

(これまでも「デプレスのきいた絨毯」という言葉をブログで使ってきましたが、
上の図はデプレスのきいた絨毯で、下の図はデプレスのない絨毯、ということになります。)

* * *

ここまでは一般論ですが、じつはトルクメン絨毯のなかにも上の図のような織り方のものがあります。
家にあるアフガニスタンのトルクメン絨毯に、両方ありますので、比較してみましょう。

まず、部族絨毯本来の織り方のもの。

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エルサリと呼ばれる支族のトルクメン絨毯。とても柔らかく、ペタンと折り曲げることができます。

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絨毯の裏側をみると、結び目が蝶々のようになっていて、対で1つの結び目です。

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これは Marla Mallett 女史の "Woven Structures" からの引用で、対称結びの絨毯の裏側。
上のエルサリ絨毯は非対称結びなので「蝶々のよう」、
一方、対象結びの場合、蝶々ではなく団子のように見えますが、2つのつぶで対になっています。

* * *

つぎに、都市工房の織り方とおなじアフガン・トルクメン絨毯。

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パイルが長く、みっしりしていて、実用使いにはとても良い絨毯です。

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絨毯の裏側をみると、1ノットにつき、つぶが1つしか見えません。
エルサリに比べ、強いテンションがかかっていて、つぶのうちの1つは絨毯の内側に入り込んでいます。

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前掲書より、「完全にデプレスがかかった縦糸」の絨毯の裏側。
ちなみに「完全に」というのは、傾斜が90度に近いもので、
傾斜の具合が45度や60度などのものもあります。
その場合は、2つのつぶのうちの1つが完全に絨毯内部に入り込まずに、裏側からも少し見えるので、
「大きいつぶ」と「小さいつぶ」が並んでいるように見える絨毯もあります。

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こちらは傾斜が90度に近い織り方の絨毯で、いかにもガッチリしています。

* * *

日本人の生活様式で絨毯を使う場合は、どちらの織り方であっても長年の使用に耐えると思いますが、
土足やハイヒールでガンガン使う欧米のような場合ですと、耐久性は後者の方が勝るでしょう。

でも最近は欧米でも土足ではなく、室内履きに履き替えたりする家庭が増えているような話を聞きました。
いずれにしても、愛着を持って絨毯を使いたいですね。




 
2013.08.16 Friday

ヒツジとともに遊牧民に欠かせない家畜「ヤギ」


『おやすみ モーフィー』というマガジンハウス発行の本を図書館から借りてきました。

毛布が大好きなスタイリスト、岡尾美代子さんのとってもオシャレな本ですが、
「羊図鑑」というページがあって、たくさんの種類のヒツジが載っていました。

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一番左上のヒツジが「オーストラリア・メリノ種」。
さっすがー、マフマフの羊毛です!
「世界各地に分布し、羊の代表的存在。あらゆる羊の中でもっとも白く細く丈夫な羊毛」とのこと。

それ以外にも、「カーペット専用種」とか「フェルト用」「フランネル用」など、
ウールの性質によって使われる用途もさまざま。

これらのヒツジは、特定の商品に適した毛にするために品種改良を経てきたものであり、
飼われている場所も、近代的に管理された大規模牧場というケースがほとんど。
現在織られている手織り絨毯の多くが、これら大規模牧場で育てられた羊の毛を使っているようです。
刈られたウールは、機械化された工程によって処理され、均質な糸へと姿を変えていきます。

* * *

でもオールドやアンティークの絨毯・キリム、とりわけ遊牧民が織ったものは、
「牧畜」ではなく「遊牧」生活の中で育てられた、その土地固有のヒツジであることがほとんど。

古いトルコ絨毯を見ても、まっ白で艶のある長繊維のウールもあれば、
あまり脂分のない短繊維のウールもあるし、
硬めだけれど艶・コシがあり耐久性に富むウールもあり、さまざまのようです。

部族や地域によって異なるウールの質。
それらがだんだん分かってくるのも、集める楽しみのひとつでもあります。

ところで、日本ではヒツジ自体にあまりなじみがない上に、
「遊牧」といっても、一部の人を除けば、あまり明確なイメージが浮かばないのではないでしょうか?

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アフガニスタンに住むパシュトゥーンとバルーチェ(バルーチ)の遊牧民を調査した
松井健著『遊牧という文化』(2001年)によると、
「ヒツジ・ヤギ遊牧民」のほかに、おもに「ラクダ」「ウシ」「ウマ」「ヤク」「トナカイ」遊牧民がいるそうです。

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(『遊牧という文化』P.20)

ここで注目したいのは、「ヒツジ」と「ヤギ」がセットになって語られていること。

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(前掲書 P.76)

遊牧生活において、ヒツジを放牧させる場合、何頭かのヤギを混ぜることが多いようです。

ヒツジはとても追随性の強い動物で、放牧の際に群れが動きを止めるとふたたび動き出すことが難しく、
ヒツジ群にヤギを加えると、ヤギが動けばヒツジもそれにつれて動くため、コントロールしやすいと言われています。

『遊牧という文化』で対象となったパシュトゥーン遊牧民の場合は、
「大型の黒い長毛のヤギ」が1頭だけ加えられていました。

それにしてもスゴいですね、上のヤギ。……レゲエ?!

* * *

和書で遊牧民について書かれている本といえば、
トルコ系遊牧民ユルックをめぐる、松原正毅著『遊牧の世界(上・下)』(1983年)もすばらしい本です。

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氏が調査を行ったのは1979年7月〜1980年10月までで、
8月から翌8月までの1年間、チョシル・ユルックの一家族と起居を共にした記録。

日本で生まれ育った学者が、生活形態のまったくちがう遊牧民のテントに飛びこみ、
ユルックの一家族と1年間の遊牧生活を共にされたのです。
慣れないテントでの起居からはじまり、悪天候やさまざまな危険、長距離の徒歩移動……
過酷なフィールドワークを成し遂げられた松原先生。面識はありませんが、本当に尊敬します!

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そして、トルコ遊牧民の本といえば、この本もけっして外せません。

Harald Bohmer著  "NOMADS IN ANATOLIA" (2008年)
Their Life and Their Textiles

遊牧民の生活やキリムの写真が満載なので、英語抜きでも十分楽しめますが、
"Encounters with a Vanishing Culture" (消えゆく文化との出会い)
という副題に見られるように、姿を消しつつあるトルコの遊牧民の暮らしを記録したという意味で
きわめて価値ある本だと思います。

* * *

これらの本を読んでいると、遊牧生活をにとってヤギがいかに重要な家畜なのかがわかります。

ヤギをヒツジに混ぜると遊牧のコントロールに都合がよいだけでなく、
ヤギはヒツジよりも悪い環境にも耐え、より広範囲の場所(悪条件を含む)での遊牧が可能といいます。

以下、文章は『遊牧の世界』より、写真は"NOMADS IN ANATOLIA"から引用させていただきます。

「夏営地における重要な仕事のひとつに剪毛がある。
家畜の利用部分として、乳とともに毛の重要性はたかい。
チャドル(注:黒テント)をはじめ敷物や袋まで生活の基本材の大部分は、
家畜の毛を利用したものからなっている。
各種家畜の毛の利用なくしては、ユルックにおける遊牧生活は成立しがたい。

剪毛の対象になるのは、ラクダとヒツジ、ヤギである。
ラクダの剪毛は夏営地に到着した当日におわった。
ラクダの毛の大部分はキリムにつかう。一部はチョッキなどにしたてる。
いずれにしてもラクダの毛はすべて自家消費用にあてている。
ヤギの毛も、原則として自家消費用だ。市場で売却することはほとんどない。」
(P.147)

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(ヤギは羊のように毛元から刈りこむことはせず、一定の長さを残します。「丸刈り」禁止?)


「ヤギの毛の用途としてもっとも重要なのは、チャドルの素材となることである。
ユルックの本来のテントは、フェルト製の円形のものだったようだ。
中央アジアのトルコ系遊牧民は、現在でもこの形式のテントをつかうものがおおい。
アナトリアのユルックのあいだでも、ごく一部にフェルト製の円形テントが使用されている。
いつの時代からか明確でないが、ユルックの大部分はヤギの毛で織った黒いチャドルを使用するようになった。
チャドルということばがペルシア語からの借用であるように、
この形式のテントはペルシア系遊牧民との接触から受入した可能性がつよい。
樹海をすそ野にもつ山岳地帯での移動を主にした遊牧生活に
より適用した形式のテントであったため、受容されたのであろう。」
(P.149)

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(ヤギ毛を梳いているところ)

「ヤギの毛は、チャドル本体だけでなく、その付属品の材料ともなる。
チャドルの側壁となるシティル、床面にしくチュルなどもヤギの毛を織ったものだ。
そのほか、ロバの背につける荷袋ヘイベや張り綱、さまざまなひもなどもヤギの毛をつかってつくる。
ヤギの毛は、それなしにはユルックの生活が成立しえないほど基本的な素材となっている。」
(P.150)

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サリケチリ・ユルックのチャドルの写真と外側から見た図
赤で囲ったのは、「タラク」と呼ばれる毛梳き用具

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このテントでヤギの毛は、天幕以外に側壁・‥擇膨樟槁澆敷物にも。
やや奥のほうに▲侫Д襯箸、より柔らかな敷物として使われ、
ずらっと並べられたチュバルの上に、ほこりよけとしてぅリムが掛けられています。

支柱にぶらさげられたとにはチーズが入っており、はヤギ皮の袋。

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ヤギを搾乳してチーズやバターを作るのが遊牧民の女性の重要な仕事。

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チーズを乾かして塩を加え、保存すると……

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「ギョッ!」って感じですが、ヤギ皮にチーズを詰めることにより、長期保存がきくとのことです。

ヤギやヒツジは搾乳ができない端境期がありますが、
遊牧民は、乳製品に変換することによってその端境期を乗り越えることができるのです。
その乳製品の一部は自家用にしますが、一部を市場に持っていって売り、
それによって得た現金で小麦粉や野菜などの自給できない品物を買ってくるわけです。

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ヤギの毛のチャドルはなかなかのすぐれもので、通気性がほどよく、
毛に脂肪分があって水滴をはじき、たえまなく焚いている火のすすが目をふさぐため、少々の雨では漏らないようです。

* * *


キリムや絨毯が好きといっても、黒ヤギの毛でできたチャドルはさすがに手に入りませんが、
さまざまな荷物を入れる袋=「チュバル(チュアル・チュワル)」は日本でも売られていますね。
トルコ遊牧民にとって、チュバルはなくてはならないもの。
次回は、チュバルについて書きたいと思います。

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