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2015.05.08 Friday

天然染料は褪色しにくいか? 一枚のコーカサス・ラグ



前回、湿気を飛ばすために絨毯を陽に当てる記事を書いたけれど、

化学染料が使われている場合は注意が必要です。



織られて100年以下の「オールド」絨毯やキリムには化学染料が使われているものが多いのですが、

特に初期のアニリン染料は、水流れ&褪色が激しいという欠点を持っていました。

改良されたクロム系化学染料は、それらの欠点がずいぶん改良はされたものの、

赤系統の色には、やはり褪色しやすいものが多いようなので、

褪色を避けるためには、表裏それぞれ15分程度にとどめたほうが良いかもしれません。

(100年以上のアンティークでさえ、化学染料が使われたものもけっこうありますので、気をつけて下さい)



* * *



さて、「天然染料は褪色しにくいか?」という問い、

「たいていの場合はイエス」と私は考えていますが、例外もあるようです。



化学染料は陽に当たると、比較的短期のうちに褪色するものが多いのにたいして、

天然染料で染められた絨毯やキリムは褪色するスピードが非常に遅く、100年以上たっても色鮮やかなものが多いです。

「褪色」という言葉よりは、むしろ「熟成による色の変化」とでも表現した方がふさわしい、美しい色になるのです。



ただし天然染料のなかには褪色しやすいものもあります。

天然染料について考察したハロルド・ボーマー氏の『キョクボヤ』という本には、

さまざまな天然染料を使った染色実験をおこなった結果、

褪色しやすい天然染料もある、ということが述べられています。

日本人には馴染みの深いベニバナも褪色しやすい染料だと書かれているのには少し驚きました。



そこで今回は、「褪色しやすい天然染料」が使われた絨毯をご紹介しましょう。



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コーカサス絨毯。さらに具体的な地域については不明アセアセ

大きさ:約142✖️106cm

織られた年代:推定19世紀末〜20世紀初め



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タテ糸:ウール3本撚り(色はこげ茶・薄茶・アイボリーなどさまざま)



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セルベッジ:コットン



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ヨコ糸:コットンの部分が多いが、真ん中あたりはこげ茶のウールも使われている。

写真はコットンが使われた部分。本数は2本(1往復)。



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ヨコ糸に茶色のウールが使われている部分。



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カラーパレット:

アイボリー、茶、こげ茶(たぶん羊の原毛)

緑(インディゴと黄色の二度染め)

青、紺、ブルーグリーン(インディゴ由来)

山吹色、枇杷色、ローズ色



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個人的な見立てではすべて天然染料だと思いますが、

山吹色と枇杷色の部分が特に褪色して、ぼんやりした黄土色のように見えます。

一方、わずかに使われたローズ色の部分は、よく残っています。



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表部分は褪色した色があるため、ちょっとぼんやりした印象ですが、

コンポジションはすばらしい!



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「村の絨毯」の美質である伸びやかさ・自由さ。



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内側ボーダー部分のお花たちの可愛いこと!

中間のボーダーは力強い幾何学模様が緊張感をたもち、

外側ボーダーの四角モチーフが心地よいリズムを奏でています。



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絨毯の裏側は天然染料がよく残っていて、

黄金色や優しい桃色など、キレイな色がいっぱい!



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裏側。

織られた当時は、表側も鮮やかだったんでしょうね〜



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夢のあるモチーフがいっぱい‥‥



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インディゴでも青、紺、ブルーグリーンの三つの色が。



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デプレスなしのフラットな織りで、

ノット数は、10cm四方で縦30目横32目くらいです。



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大部分のヨコ糸にコットンが使われているので、

手に持った感じはしっかりとしています。(くにゃくにゃしない)



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ヨコ糸に茶色のウールが使われている部分ですが、

特質が違うヨコ糸をとりまぜて織るのって、技術的に難しくなかったのかな?



でもたぶん、これを織った人はとても上手な人だと思います。



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村の絨毯や部族絨毯は基本的に「方眼紙」を使いません。

せいぜい「ワギレ」と呼ばれる織り見本を見るくらい。



考えてもみて! 頭のなかに全体像のイメージを浮かべながら織るんですよ!

コレ、スゴくない??? エリザベスエリザベスエリザベス



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少なくとも私にはどう頑張ってもできません。 kyu



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目も覚めるような黄金色!

裏はこんなにキレイなのに、表が褪色しちゃったのが残念〜



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モチーフの並べ方がこんなにカワイイのは、天性のセンスでしょうか。



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表は褪色しちゃったけれど、それでもなおかつ美しい、村の絨毯です。

2014.07.26 Saturday

ルリ族それともコーカサス? チュバルのような縦長バッグ

連日暑い日がつづいていますが、みなさまお元気ですか?
暑中お見舞い申し上げます。

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いっそ「フラグメント・コレクター」と呼ばれたい、ボロボロ絨毯大好きの私が選んだピースです。

ディーラーによると「ルリ族のバッグ」ということでしたが、
不思議なのはこの形状です。まるでアナトリアのチュバルみたい!(約91×66僉
本でもネットでも、ルリ族のこのタイプの袋は他に見かけたことがありません。

ねっとりしたウールやお花模様や赤白のボーダーは、むしろコーカサスっぽい……

016.jpg

パイルは対称結びです。
対称結びは、トルコ・コーカサス・ルリ、ハムセ、カシュガイの一部などで使われます。

上のものから消去法でいくと、ボテ文様はトルコのものではまず見かけません。
だからトルコのものの可能性は低いでしょう。

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次に縦糸ですが、茶色の羊の原毛が使われています。
撚りの甘いふわっとした茶色の経糸となると、ルリ族かハムセを思い浮かべるのですが、
ここで「待てよ?」と思って、経糸の撚りをほどいてみました。

すると、なんとなんと「3本撚り」ではありませんか!
「3本撚り」の経糸は、コーカサス絨毯の特徴です。
(コーカサスも、地域や時代によって「2本撚り」の場合もありますが……)

さらに、この赤白やお花模様のボーダーは、コーカサス絨毯でよく使われるものです。

なのでこの袋の出自は、ルリ族ではなくコーカサスではないかと私は思います。

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室内だと染色の良さがいまひとつわからないのですが、お陽さまに当てるとギラギラと輝きます。
配色もすんばらすぃ!
緑系アブラッシュ・フェチの私ですが、となりの金色がかった黄土色も透明感があってとてもキレイ。

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上の写真のボテちゃんがふっくらしているのに比べて、こちらはややスレンダーなボテちゃんたち。
夏バテしちゃったのかな……
最上部のボテの上(赤と白の細いボーダーの下)にある中途ハンパな文様はなんだろう?
右手にある二つの△ちゃんもラブリー♪♪♪

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袋の中央部分がもっとも擦り切れていますが、文様のリズム感がなんとも心地よいんですね。
「配色と文様のリズム感」……これって、とっても大切だと思います。

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ボテちゃんたちがニッコリ微笑んでいるみたい!

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小麦粉とか穀物を入れた袋だったのでしょうか……

使い込んで擦り切れてしまっていますが、
思いをこめて丁寧につくられた袋。
とってもセンスの良いキュートな女性ハートがつくったんでしょうね♪

捨てられるわけがありません。
 
2014.03.08 Saturday

そして絨毯が残された――コーカサス・クバ 絨毯

マス・プロダクトの絨毯の話は勉強にはなったけれど、なんだか心がカサカサになりました。
和田泰志著『アンティーク・カップ&ソウサー』(講談社2006年)に興味深いことばが書かれています。

「18世紀の昔よりも19世紀や20世紀のほうが、蒸気機関、石炭、電力など、技術的な進歩が著しい。
しかしながら磁器製品の品質は、時代を追って明らかに低下傾向にある。
読者の中には、近・現代では工業的に恵まれた環境にあるのに、なぜ逆に良い品物が減るのだろう、という疑問をお持ちの方があろう。
けれどもこれは『逆に』ではなく、技術が進歩したからこそ、磁器作品の質が悪くなったのであり、
窯業の科学的・工業的発展と工場設備の近代化が、磁器から芸術性を奪ってしまったとも言えるのである」

* * *

磁器だけでなく、絨毯に関しても同じことが言えるのかもしれません。
「実用品」として考えれば、良質な絨毯はいまもたくさん織られているでしょう。
でも最近のもので、織った人の気持ちが伝わってくるような絨毯はほとんど見かけない気がします。

「芸術性」とまで言えるかどうかはともかく、絨毯のなかには「アート」を感じさせるものがあります。
今回はひさびさに "My Favorite Rug" をご紹介しましょう。

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コーカサスのクバ地方の絨毯と聞きました。約153cm×110cm。
コーカサス絨毯は日本ではほとんど見かけませんが、欧米では高い評価を受けています。
このデザインは、手持ちの絨毯本に似たものが見つからないので、個人の創作の部分が大きいのでしょうか?

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どことなくユーモラスなモチーフが活き活きとして「絵心」を感じさせます。
フィールドのいちばん下の部分は、トラかヒョウが行進しているように見えるし
その上に3つ並んでいるモチーフはダンス中。その周辺にも面白い模様がちりばめられ、
わたしは勝手に「アフリカのお祭り」という名前をつけています。

幾重にも重なるボーダーの織りがキリッとしていて、とても上手な人が織ったことがわかります。

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オレンジがかった桃色(ローズレッドではない)、黄土色、グレーなど、あまり見かけない色ですが天然染料だと思います。
古い絨毯やキリムの天然染料は、茜・インディゴ・コチニールなどいくつか「典型的な色」があるのですが、
100年以上前には、それらとは別の、地域独特のレシピがあったのではないかと推測しています。
前回のトルコ・クラの絨毯に使われている色も独特でした。
この絨毯もクバ地方の村の女性が織ったものだと思いますが、プロの染色職人ではなく自分たちで染めたのかもしれませんね。
ちなみに田村うららさんの本によると、ボザラン絨毯の「グレー」は草木で染めた後、泥につけて染めるようです。
泥染めは日本の大島紬でも有名ですが、絨毯の本で泥染めの記述を見たことがなく、目からウロコでした。

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あまり写真がよくありませんが、色糸を何度も切り替えて個性を出しています。
これを織った人はとてもアートセンスがあると思いませんか?
工房や工場で織られる絨毯には、独創性が入りこむ余地はありません。
プロのデザイナーが意匠や配色を考えるので、間違いはない一方、こういった個人の才能を活かすことはできません。

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経糸は染めていないウールで、多くのコーカサス絨毯に特徴的な「3本撚り」。(一般的には「2本撚り」)
まん中あたりにちょろっと出ている横糸は、茶色とオフホワイトのウールの2本撚りです。

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絨毯の裏側。地味な色が多いけれど、落ちつきがあって見飽きない絨毯です。

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左に見えているセルベッジ(端)は傷んでいたのでしょう、後から巻かれたものです。
ボーダーの文様はコーカサス絨毯に典型的なものですが、フィールド部分がなんといってもユニーク。

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寝室の壁にかけています。
眠るとき、目が覚めたとき、この絨毯が目に入ると、とても気持ちが落ち着きます。
 
2011.07.23 Saturday

はじめてのコケージョン・ラグ!

 先日、「最近買ってしまうのは、ほとんどが、もうボロボロに擦りきれたもの」と書きました。

「それって、どんなの?」という奇特なお方がいらっしゃるかもしれませんので
まあ、「きたなーい!」と言わずに見てやってくださいまし。


これは「コーカサスのじゅうたん」ということで購入しました。
はじめてのコケージョン・ラグであります!

ICOCでも、コーカサス・ラグはその「お店の看板」商品として誇らしげに展示されていました。
なかでも有名なのは「お祈り用絨毯」です。



これは、クバあるいはダゲスタン地域の有名なプレイヤー・ラグで、大変な高値のはず。

「立派だなー」というのは分かるのですが、
こういった整ったデザインのものに、個人的にはそれほど魅力を感じません。
むしろ、村のお母さんが織ったような暖かみのあるものが好みです。

それにしてもこのラグは変わっています。
絨毯の本でも、これに似たデザインのものは見たことがありません。



いったい何ですか? この文様は?
……
でも、自由で、楽しくて、のびやかで、大スキ!
この色づかいも楽しく、見ていてうれしくなります。

なんとなくパウル・クレーの絵を連想してしまいます。
(いま東京国立近代美術館で「パウル・クレー展」をやっていますが、
7月31日までなので、行かれる場合はお早めに!)



状態はご覧のとおりで、黒色のウールはほぼ朽ちてしまい、
ベースもあちこちに穴が開いています。



トルコ・ノット(対称結び)で、織り目は細かくありません。
裏側からみても、織りがコーカサスのものっぽいので、
このラグはやはりコーカサスのものなのでしょう。



外側と内側のボーダーがお花柄で、かわいい!



下部は外側のボーダーが欠損しています。
こんなボロボロのじゅうたんでも、わたしにとっては宝物なんです。
へへへ……

2011.07.16 Saturday

シルバンキリム ランナー

アナトリアン・キリムが華やかな色とデザインなのに比べ
コーカサスのキリムは、渋めの色と幾何学的模様がのものが多いように思われます。
織りも密でしっかりしていて、長期間の実用に耐えられる感じ。



シルバンのランナーです。



発色の良さと密な織り。
これをはじめて見たとき「着物の帯」みたいだなと思いました。



触った感触は、まさに帯のよう。



ベンガラ色と抹茶色



こげ茶とインディゴの切り替えに、茶色を入れてあるところがニクイ!
その右上のレンガ色も濃淡を変化させています。



経糸は何種類かのウールをとりまぜています。
オフホワイト部分もコットンではなくてウールです。



つややかなウールがおひさまに輝きます。



落ちついた色なので日本の家屋にも合いますね。



びょん!



びょん!



びょん!



びょん!
(意味不明で失礼しました……)



一般にこういう長いキリムは、
デヴァンという応接間の椅子の上の壁に掛けられるといわれているようです。
要するに「インテリア」?



コーカサスキリムも捨てがたい魅力があります。


2010.12.06 Monday

コーカサス チェック?のヴェルネ(後編)

 今回はこのジジムを見ていて、気がついたことを取り上げます。
このピースの大半は、とても上手なひとが織ったのではないかと思いますが……



右端の「羊の角」、ちょっと歪んでいませんか?



ありゃりゃ、この菱形はどうしたことでしょう?
裏側に現れているジジムの始末も、つたない感じですが……



左右のボーダーのジジムは、たどたどしい菱形がほとんど……

* * *

さて、ここから先は推測になりますが、
どうもこのピースは、上手な織り手さん以外に「初心者」が加わっているのではないでしょうか?
地の部分とフリンジ付近のジジムは、上手なひとが織って、
「初心者」が左右ボーダーのひょろひょろジジムを手がけたのでは……



"TRIBAL RUGS" by Jenny Housego 1996より
シャーセバンの女性がジャジムを織っている写真
(お母さんたちはガイジンさんに慣れたようすなのに、子どもたちは「不審」のまなざし!)

以前からなんとなく気になっていたのですが、
遊牧民の写真には、上のように小さな女の子がよく一緒に写っているんです。


"Carpet Magic"  by Jon Thompson 1983 より
トルクメンの女の子がおもちゃの織り機で絨毯を織っています

遊牧民の女の子は、ものごころがつくや、ごく自然に織物にかかわっていくそうです。
いつもすぐそばでお母さんがキリムや絨毯を織るのを眺めているうちに、
自分も織ってみたくなるのかもしれません。

"ORIENTAL RUGS IN COLOUR" by Preben Liebetrau (1963) という本に、
つぎのように書いてありました。

遊牧民のラグはすべて女性によって織られ、子どもたちを手伝わせることもしばしばある。
女性が
両脇の二人の子どもたちと一緒に仕事をしているのは、ごく普通のことだ。
これによって彼女らは絨毯製作の秘訣と要領とを、遊びの感覚で習得するのである。


"KILIM The Complete Guide" by A.Hull & J.L.Wyhowska
アフガニスタンのハザラ族の女性と子どもたち

両脇に女の子のいる写真を見つけました!

なにを手伝うのかといえば、
糸の色を変えるときに、「赤取って」とか「青取って」と指示したり、
「(織り目を詰める)タラク取って」とか「(パイルをカットする)ナイフ取って」とか
使う道具を手渡しするのが、まず手始めかな〜、なんて考えちゃいます。

お母さんはキリムや絨毯織りの作業を見せたり説明したりしながら、
つぎの世代に手仕事を継承していったのではないでしょうか。
そしてそれが、母と娘のコミュニケーションでもあったという……

子どもたちにしてみれば、
単なる毛糸が一枚のうつくしい織物へと姿を変えるのを驚きの目で眺めつつ、
いつかは自分が糸を操って、作品をつくりあげたいと願ったのかもしれません。

これって、ものごとをロマンチックに考えすぎでしょうか?
でも、もし、単に必要だからというだけでなら、
あれほどたくさんの美しいキリムや絨毯が生まれるはずはなかったと思います。

ひとがものをつくるということには、
きっとよろこびが伴っていたはず。

コーカサスのベルネのジジムを眺めながら、
そんなことを考えました。

2010.12.05 Sunday

コーカサス チェック?のヴェルネ(前編) 

 しつこいですが、ヴェルネです。
これはアゼルバイジャンのなかでもアルメニアとの国境に近いあたりのものでしょうか?



とてもコンディションがよく、ほぼ未使用と思われます。

これまでにご紹介した白と赤のヴェルネは「二枚はぎ」でしたが、これは一枚でこれだけの大きさ。
季節ごとに場所を移動する純粋な遊牧生活では、これだけの大きさを織ることは無理でしょう。
たぶん半定住か定住している家庭で織られたものだと思います。



ぎっしりとした、とても密な織りです。
このなかに針を通そうとしたら折れそうなくらい生地が詰まっています。



房も立派です。二色の糸を使った房もありますね。
「ボトル・グリーン(瓶の緑)」と呼ばれる深い緑やマスタード・イエローもステキ。



これだけ密なキリムだと折りたたむときバリバリしそうに思えますが、
実際には、しなやかで、きれいに折りたためます。

ひとつには、ある程度の歳月を経てこなれているため。
もうひとつは、ウールの質が良いためだと思います。

ご紹介したカシュカイ・キリムよりはカリカリした感じですが、艶があります。
ウールがよいと、色もきれいに染まるみたい。



すべて天然色だと思われますが、あまりにも状態がよいために、ちょっと年代が特定できません。
ただこれほどのヴェルネは、いまはもう織ることができないと思います。



ピシッと整った織り。かなり上手な織り手なんでしょう。



よく「羊の角」と呼ばれている文様のジジム



裏から見るとこんな感じですが、ジジムの部分を見なければ、裏と表がわかりません。



キリムや絨毯の織りの技術は
現代のように織物工場に入ってプロの技術指導を受けて学んだものではなく、
基本的には、家庭のなかで母から娘に伝えられてきたもののはず。

彼女らの織りの技術はどうやって伝承されてきたのか、
あれこれと想像がふくらみます。
……
そんなことなども含めて、次回もこのヴェルネを取り上げたいと思います。

2010.12.01 Wednesday

コーカサス シルバン キリム

 あまり日本では知られていませんが、
コーカサスの絨毯はゆたかな色彩と個性あふれるデザインで、欧米でとても人気があります。

お値段のこともあってコーカサス絨毯は一枚も持っていないのですが、
キリムとは縁があるみたいです。

コーカサス・キリムの魅力は何か?
とたずねられたら、やっぱり「色!」と答えるでしょう。



なんだか日本の伝統色のようだと思いませんか?
まん中の柄部分だけ見せられたら、日本の織物みたいです。



茜・インディゴ・黄色がかったベージュと茶。
それぞれの色が、落ち着いています。



インディゴの濃淡も自然でいい感じ。
白と茶色の毛糸をねじった飾り織り(weft twining)がつけられています。



    日本の秋&シルバンキリム!
まんなかの薄茶色はラクダの毛と思われます。



経糸は、茶色と生成りのウール二種類を撚り合わせたもの。
二色の糸を撚り合わせた経糸はコーカサス・キリムに多くみられ、
「ウールとウール」だけでなく、「ウールとコットン」の撚り合わせもあります。



細い毛糸を使った、整った密な織りです。
このキリムはコンディションがよく、ほとんどリペアがありませんが、
密なキリムに目立たないようなリペアをするには高い技術が必要なので
コーカサス・キリムは、「リペア職人泣かせ」とも言われているようです。



下のボーダーをご覧ください。
柄の切り替えにスリット織り使われていて、すき間がすこし見えるでしょうか。
スリット織りの部分が多いと、引っぱられたときにそこから裂けるリスクがありますが、
この程度の分量なら、大丈夫そうですね。



赤も、ほんの少し茶色がかった独特の色。
派手さはないけれど、ほっと落ちつけるコーカサス・キリム。
和室にもしっくりと馴染みそうです。

2010.11.28 Sunday

コーカサスの赤いベルネ(クルド?)


絨毯やキリムについて少しずつ勉強していくと、
「大陸っていうのは、本当にさまざまな“民族”が入り乱れながら住んでいるんだなあ」
と思うことが多くなりました。

ちなみに“民族(race/nationality)”という言葉は定義がむずかしいので、
ラグやキリムの世界では"tribe(種族・部族)""tribal group(部族グループ)"
という言葉のほうが適切ですね。

北イランからコーカサスにかけては、特に複雑な地域です。

前回なにげなく使った「シャーセバン」という区分も、
トルコ語系を中心に、クルド人・タジク人・グルジア人までが含まれていて、
正確な意味での"tribe"ではなく、サファビー朝シャー・アッバスの時代、
オスマントルコに対する防波堤の役目を負う形でペルシャに移住した「同盟」であり、
Shahsavan Confederation というのが適切みたいです。

KILIM The Complete Guide  by A.Hull & J.L.Wyhoska によれば、
現在シャーセバンは、下の5つの灰色の部分に住んでいるようです。



シャーセバンのなかでも、住んでいる地域によって毛織物の配色などが違い、
先日ご紹介した「生成りに赤・青・茶」というシンプルな配色のベルネとマフラッシュは、
どうやら赤線で囲ったモルガン平原あたりのモノのようです。

* * *

さて今回は、コーカサスの赤いヴェルネをご紹介しましょう。



このタイプのヴェルネはトルコの業者さんを通して日本にも入ってきています。



裏糸の量がけっこう多いかも……



Flat Woven Rugs & Textiles from the Caucasus  by Robert H. Nooter
という本によれば、このタイプは、Yarevanのクルド族のものとされています。
Yarevanは、コーカサスのなかでもトルコの北東国境に近いので、
トルコにたくさん入ってきたのでしょう。



このタイプの房は、クルド族に多いみたい。



肉眼で見ていると気づかなかったのですが、
一番上の写真を見ると、色の濃い部分と白っぽくなっている部分に分かれています。
もしかして……織った方向が違うかも?

コーカサスの「赤」も、落ち着いたいい色だと思います。

2010.11.26 Friday

シャーセバン(Shahsavan)? マフラッシュ

 先日のヴェルネ(ヨムート?)は、生成りのベースに赤・青・茶というシンプルな配色でしたが、
似たタイプのマフラッシュをご紹介しましょう。



先日のヴェルネはベースもすべてウールでしたが、こちらのベースはコットンです。



マフラッシュとは、寝具などかさばるモノを入れるためのキリムです。
シングルの羽毛布団が二枚入りました。
上の方に紐とそれを通す穴があって、かなりしっかり梱包できます。
このマフラッシュの紐は、最初はすべて山羊の毛だったようですが、
何本か切れてしまったのか、コットンの紐もあります。



底もコットン。
かなり使い込まれて、穴があります。



でも、このジジムのすばらしさを見てください!
時代が若くなると、この「きっちり感」が崩れたモノが多くなってきて、
なんとなく弱々しく、ジジムのラインも乱れてくるように思います。



インディゴの濃淡にも風格があります。



遊牧生活に適した、折りたためる「家具」です。

ところで、「赤ちゃんのゆりかごにも使いました」という説もあるようですが、どうもあやしい。
かなりの深さがあって、赤ちゃんがここに入れられたら恐怖を感じると思います。
信頼できそうな複数の本でも、「ゆりかご説」は否定されています。

ただ、たしかに遊牧民のお母さんはチーズづくりや家畜の世話などとても忙しいので、
ずっと赤ちゃんに付きっきりというわけにもいきません。
そこで……


(NOMADS IN ANATORIA   by Harald Bohmer)

こんなコトもしちゃうみたいです!
また、カシュカイ族には、ゆりかごのキリムもあるみたいです。

(KILIM2  by P.J.Gates 1986)

お母さん手作りのゆりかごで、赤ちゃん幸せですね!

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