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2016.04.28 Thursday

バルーチ SALOR KHANI のサドルカバー


先日とりあげたバルーチのつづきですが、これはなんだと思いますか?

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先日のホルジン(袋)の大きいタイプは、約80cm四方でしたが、これはおおよそ92✖️99cm。
大きめのbagface よりもひと回り大きいピースです。

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四角ではなく、オリジナルの段階から上部左右がストンと落ちた形に織られています。
こういう形状のものは、馬などに乗るときの「サドルカバー」だと言われています。

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BRIAN W. MacDonald 氏の "TRIBAL RUG" 掲載の、デザインがよく似たサドルカバー。
このピースはボーダーが動物づくしだし、オンドリやお花などとっても楽しい!

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イラン北東部のホラサン(khorassan)地方のサロール・ハニ(SALOR KHANI) という
バルーチの1グループのものだと説明されています。

フィールド中央部は、都市工房のペルシャ絨毯などにもよく使われる「ヘラティ紋様」。
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この細長いモチーフは「葉っぱ」「羽根」などとも言われるのですが、「魚」説も多数。

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わたしのピースも中央部分がヘラティ紋様になっています。

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写真まんなかあたりの白地の「階段状」モチーフもサロール・ハニ特有の紋様みたいです。
下には動物もいるし、上にはユニークな物体が漂っていて、不思議〜なデザイン!

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劣化しやすい茶色の糸だけでなく、全般的にパイルがすり減ってハゲハゲ〜。泣き
もともとパイルは短めにカットされ、デプレスなしの織り構造なので、布のようにくにゃくにゃ曲がります。

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パイルが比較的残っている部分を見ると、とてもシルキーで柔らかいウールが使われています。

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経糸が表面に現れるほどすりきれた絨毯ですが、
それでも大きなお花の陰で動物たちが愛を語りつづけています‥‥ ハートハートハート
 
2016.04.14 Thursday

バルーチのホルジン(袋)3点


前回とりあげたのは、袋の裏が取り去られたbagface(袋表)ですが、
今回は、裏が取り去られていない袋の状態のバルーチを3点ご紹介します。

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ひと口に「袋」と言っても、大きさはこのように様々です。
右側と真ん中のピースは大きめで、ロバ・ラバ・馬などの背にかけて使い、
左側は、人間が片方の肩に担いで使えるような大きさです。

「裏が取り去られていない袋」ではありますが、残念ながらオリジナルの形ではありません。

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"ORIENTAL RUGS Vol.3 The Carpet of AFGHANISTAN" by R.D.Parsons より

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こういうのが「ホルジン」と呼ばれる袋のオリジナルな形です。
袋がそれぞれ左右にあり、中央にソマック織りと見られるインターバル部分があります。
このインターバル部分は、上のピースのように比較的長いものもあれば、短いものもあります。

絨毯織りの部分のギュル(紋様)は、アフガニスタンに住むトルクメンの「クラン」のひとつである「スレイマン」のものです。
「スレイマン」は、「エルサリ」の1グループと言われているので、
大グループからの分類は、「トルクメン族ーエルサリ支族ースレイマン・クラン」というふうになるのでしょうか。

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前掲本より写真をもう一枚。
これは「バルーチのホルジン」で、
明るい色のボンボンは、アフガンバルーチに特有のものだと説明されています。

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さて、現物のピースの説明に戻りましょう。
表の大部分は絨毯(パイル)織り、袋をとじる部分が平織り(キリム)になっていますが、
裏側は、このようにボーダー柄の平織りになっています。

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左のピースは、とってもモダンでポップな印象。
バルーチにはちょっと珍しいタイプです。

バルーチの絨毯は、おもにイラン北東部のホラサン地方か、南に下ったシスタン地方かのどちらかのものが多いのですが、
このピースは明るめの色合いからすると、シスタン地方のものかな?という気がします。
ただここらへんの判断は難しいので、自信はありません。

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裏はこんな感じ。

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このピースは、ウールにとても艶があるんですよ。
パイルの状態もいいので、ナデナデするとムッチャ気持ちいい〜!
うちのマンションはワンちゃん猫ちゃん禁止なので、ペットの代わりに撫でてます。kyu

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このピース、コンディションは良いのですが、裏側を見るとけっこう年代があるようです。
写真ではうまく伝えられませんが、キリム織り部分の墨〜紫色は深みがあってすばらしい染色だと思います。

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この紋様は、"THE BALUCH" とでも言うべき、バルーチ固有のデザインです。
色合いも、イラン北東部のバルーチが使う代表的なもの。

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平織り部分には、ところどころ「浮綾織り」で細かい紋様が織り込まれています。

このピースは、3つのなかで一番大きいこともあり、
100年ほどの年月を経て、風格を感じさせるピースです。
 
2016.04.06 Wednesday

朝のTimuri bagface


あまりにも絨毯関係の記事をサボりつづけていることに負い目を感じているぷぎーです。
今朝起きて、椅子の背にかけていたバルーチ・タイプの袋表がイイ感じに見えたので写真を撮りました。

トルクメンやバルーチなど暗い色の絨毯は、写真に撮るのが難しく、
何度撮っても実物とはかけ離れた感じの写真になってしまうことが多いのですが、
朝の光というのは結構いいかもしれません。

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一般に「バルーチ」として流通する絨毯は、実際にはいろいろなグループのものが含まれています。
これは、アフガニスタン北西部からイランにかけて住む Timuri と呼ばれるグループの袋表です。


"TRIBAL RUGS" by B.W.MacDonald より

緑色の部分が Timuri の居住区域です。

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袋表、英語ではbagface と呼ばれるピースは、もとは裏のついた袋だったものですが、
多くは、絨毯産地から欧米に輸出される過程で、袋の裏が取り去られてしまいました。

裏側はたいてい、あまり文様のないキリムですが、
その当時の現地の認識では「大切なのは絨毯部分であり、キリムにはほとんど価値がない」と思われていて、
輸送費を浮かせるために切り離して輸出したケースが多かったと言われています。

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これはおそらく20世紀前半までの欧米でも、メジャーな認識だったのでしょう。
当時の欧米でもこのような小ぶりのピースは、小さなテーブルなどの掛け布として使われることが多かったようですから、
「裏側は必要がなかった」と言ってもいいかもしれません。

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"FACTS ABOUT ORIENTAL RUGS" by Charls W. Jacobsen より
この本は1931年出版ですから、写真は1920年代のニューヨーク州の家庭のものだと思われます。

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やがて欧米でも1960年代以降の「ヒッピーの時代」になると、
絨毯を「オリエンタル・カーペット」というより「トライバル・ラグ」として考える若者たちが増えてきます。
上の写真のようなインテリアとは、ちょっと違った視点で絨毯を見る人びとが増えてきたのです。

そうすると、部族社会で儀礼もしくは実用のために織られた「オリジナル」な形が尊重されるようになりました。
かれら固有の文化を尊重するようになった、ということでしょう。

彼らはかつて袋物の裏側が切り取られたことを大いに嘆きます。

そういうわけで「オリジナルな原型」をとどめている袋は非常に珍重されるようになりました。

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さて、絨毯の裏側、上はコンテンポラリーのギャッベ、下が Timuri です。
ギャッベは今日売られるために織られたもので、デプレスを強く効かせた織りですが、
Timuri は、ほとんどのトライバルラグにみられる、デプレスのない織りです。

この違いは、まだまだ日本の絨毯界に浸透していないようですが、絨毯を判別する際の基本となるものです。

* * *

たとえば、いま eBay に「いいな〜」と思うラグが出品されています。(買えませんが‥)ゆう★
コーカサスの有名な「ドラゴン・カーペット」と呼ばれるデザインで、大きな絨毯だったものの一部のようです。

ところが説明に「DOBAGのラグ」と書いてあるのです。
「DOBAG」絨毯とは、1980年代にトルコで手紡ぎ・天然染料の絨毯を復興しようと織られた絨毯のブランドですが、
織りの技法としては、トルコ結び(対称結び)、デプレスなし、のトルコの村の伝統的な技法です。

ところが eBay の絨毯は、ペルシア結び(非対称結び)、強いデプレスが効いた織りになっていて、
DOBAG 絨毯ではないことがわかります。
出品者に悪意はないのでしょうが、織りの技法についてよく知らないのかもしれません。

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Timuri の絨毯は、バルーチタイプの絨毯群のなかでも、織りは比較的細い方で、
この袋表は使用によってかなりパイルが短くなっていますが、
絨毯が織られた当初から、もともと短めにカットされる傾向にあるようです。

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インディゴ、茜、茶、こげ茶(鉄の媒染のせいで摩耗が激しい)、金に近い黄色。
S字紋様などバルーチタイプに多く見られるデザイン。

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あー、やっと絨毯の記事がアップできた〜(笑)
 
2015.09.29 Tuesday

ひさびさにバルーチ


秋も深まり、いよいよ絨毯の季節がやってきました。

今回はひさしぶりにバルーチ!
「トルクメン・ボーダー」と呼ばれるシャープなボーダーの絨毯を二枚ご紹介します。

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二枚とも19世紀末というよりは1870年代くらいはありそうな感じです。
右側の絨毯がうちに届いて日光に当てたのですが、
手に持った感じがしっかりしていたので、
ホコリを取るために布団たたきで叩いたら、パイルがパラパラ落ちてきて大失敗!
ダメじゃん! Docomo_kao18

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縦133cm、横95cmくらいの小ぶりのラグです。

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裏側とフリンジ。
薄茶色の糸はラクダの毛で、
一定期間使うと羊のウールは毛羽が取れてツルツルになりますが、ラクダの毛はボソっとしたまんま。

二枚とも、織目は比較的ゆったりしたタイプです。

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古いバルーチの魅力のひとつは、やはり「色」。
このラグも、黄金の栗色やインディゴの濃淡が魅力。

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アメリカのコレクターのインタビューで「絨毯は日光を食べるんだ」というセリフがありましたが、
まさに古いバルーチ絨毯は「日光を食べます」。
日に当ててその色を見ると、思わず息をのむ美しさ。

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いまだにバルーチ絨毯って、よくわからないところが多いんですが、
独特のすぐれた美意識をもつ絨毯が多いんですね。

ペルシャ・デザインやチュルク系文様など、いろいろの影響を受けていて、
「バルーチは独自の文様を持たない」などと言われたりもするのですが、
さまざまなモチーフをバルーチ独自の美意識で再構築する。

この絨毯は「バルーチの美意識のひとつの結晶」ではないかと、個人的には思っています。

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これもある種の「凄み」を感じさせる絨毯です。
縦150cm、横78cmくらい。

以前 rugrabbit で似たようなデザインの絨毯を見かけました。
(でも最近は「おっ!」と思えるようなものがほとんど出ません‥)

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裏側とフリンジ。
やはりこの絨毯にも独特の「栗色」が使われています。

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アルカイックな印象の文様。
渋いっす! さすがバルーチっす!

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キレの良さを感じさせるかっこいいボーダー!
相当なスキルとセンスをもつ織り手でしょう。

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何気に色を切り替えているところもニクい!

「バルーチのアートセンスはスゴい!」
‥‥って言っているのはわたしだけ?
2015.05.27 Wednesday

絨毯のオリジンは? 「バールリ」ソフレ


前回取り上げたピースで、「バールリ」が織ったとされるピースがありました。

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室内で撮った写真

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よく晴れた日に室外で撮った写真

* * *

今回は「絨毯の特定」、つまりどの部族が織ったものかを考えたいと思います。
わたしはこのピースをMichael Craycraftさんから「バールリ」というバルーチ系部族の「ソフレ(食卓布)」として購入しました。

おじさんはトライバルラグ最盛期にカリスマ的ディーラーとして、おびただしい数のピースを扱っているし、
絨毯や部族の研究にかける熱意、特にバルーチに関しては大変なものでした。

これを「バールリ」のものだとした大きな理由は、
ハルーチ・タイプに典型的な「インディゴと茜と白」というカラースキームに加えて、
対称結びで織られている」ことだと思われます。

バルーチ・タイプの絨毯はほとんどが「非対称結び」だけど、
バールリ・グループは「対称結び」で織られているのです。

* * *

けれど、このピースはあまりにレアで、
これに近いものは、実物はもちろん見たことがないし、手持ちの絨毯本にも載っていません。

正直なところこれが絶対に「バールリのソフレ」なのかどうか、個人的には自信がないのでアリマス。
おじさんは「バールリ」だと言ったけれども、
自分自身がいろいろ考えて、調べて、納得したい。
きっとおじさんもそのような探究心(?)を喜んでくれるのではないか、
などと、勝手に考えてマス。

* * *

デザイン

まず、デザインがなんとなくアフシャールっぽい。

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"Kilim the Complete Guide"  に載っているアフシャールのキリム。
大きめのボーダーに囲まれた内側が箪笥状に分けられた構図が、なんとなく似ていませんか。

白っぽい菱形に囲まれた2個の「S字」文様も、私のピースの下から2番目の段のものと類似しています。

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この8つの花びらのお花モチーフも、バルーチタイプではあまり見たことがないのですが、

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マクドナルド版の"Tribal Rugs"には、
塩袋のなかに、似たような花のモチーフが使われています。

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お花部分を拡大すると、似たような「8つの花びら」。

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この文様もどこかでアフシャールのキリムで見たような気がしますし、
織りの技法から言っても、アフシャールも基本的に「対称結び」で絨毯を織るんです。

* * *

というわけで、これはアフシャールのピースの可能性もなきにしもあらず? と思うのですが、
デザインだけで、絨毯のオリジンを結論づけるのも問題。

というのも、絨毯が商業目的で大量に織られるようになって以降、
人気のあるデザインは、違うグループがどんどんコピーしていったからです。

トルクメン絨毯のデザインをコピーしたパキスタン絨毯は有名だと思いますが、
「ブハラ絨毯」を織っているのがトルクメン族でない場合も多いのです。
またコーカサス絨毯のデザインをコピーしたものも、ペルシャやトルコ、アフガニスタンなどで織られました。
わかりやすいところでは、もともと南西ペルシア遊牧民の絨毯であったギャッベ、いまはインドなどでも織られていますよね。

絨毯で一番最初に目に飛び込んでくるのはデザインと色なので、
どうしてもデザインからその絨毯のオリジンを判断してしまいがちですが、
織りの構造や使われているウールの質、タテ糸やヨコ糸から読み取れることなど、
総合的に判断する必要があると思います。

このソフレは、どうも商業目的で織られたものではなさそうですが、
19世紀末あたりには、違う部族のデザインをコピーすることは、それほど珍しくなかったようです。

* * *

仮にこれがアフシャールのものだとしても、ギモンが。

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これ、タテ糸が茶色のウールなんです。
バルーチ・タイプの絨毯も、アフシャールの絨毯も、タテ糸はオフホワイトが基本。

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あとはやっぱりカラー・スキームが、アフシャールよりはバルーチっぽい。
この濃淡のインディゴの見事な染めは、バルーチの得意とする点!

ウールの質

このピースはウールの質もしなやかで艶があり、古いバルーチによく見られる上質なものです。
私はアフシャールのバッグを一枚だけ持っているのですが、それは硬めでラノリン(自然の油)があまり多くないウールの。

ウールの質は一般に寒い地域のものほどラノリンが多く艶があると言われていますが、
ただ、アフシャールの居住区域は多岐にわたっているので、良質のウールが使われている地域もあるでしょう。

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この地図ではイラン北東部にもアフシャールが住んでいるようです。
ホラサン地方は良質のウールの産地として有名で、バルーチも住んでいます。

現時点での私の推定

このピースはホラサン地方周辺のもので、
・アフシャール・デザインの影響を受けたバールリが織った
もしくは
・バルーチが好んで使うカラースキームを使ってアフシャールが織った
という可能性があると思います。
もちろん、それ以外の部族の可能性も。

* * *

このピースは、ヨコ糸の一部に青糸が使われているなどの特徴があります。

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パイルが抜けているので、青いヨコ糸がはっきりと見えます。

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でも青いヨコ糸は一部分で、それ以外は茶色の原毛が使われています。

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‥‥イロイロ言ったけど、結局何がわかったのか、迷走しただけだったのかも。
ま、オタクのたわごとと許してくださいアセアセ
 
2014.04.02 Wednesday

桜とバルーチ

昨年の春「桜とトルクメン」という記事で「なぜ花びらではなく花まるごとが落ちているのだろう」と不思議がっていたら、
ご親切にもやままゆさんという方が「桜の蜜を吸い取るためにスズメがちぎったものでは」と教えてくださいました。
スズメはくちばしが太くて短いから花の根元をちぎり、
くちばしが細くて長いメジロやヒヨドリは花の正面から蜜を吸う、とのこと。
やままゆさん、素敵な情報をありがとうございました。<(_ _)>

去年より咲くのが少し遅れたけれど、例年になく厳しい冬をのりこえて咲いてくれた桜はやっぱりステキ。
今年もスズメが落としてくれた桜の花を拾っていたら、
朝の掃除の作業員さんから「何やってらっしゃるんですか?」と訊ねられたので、
これこれこうなんですよ、と説明したら、へえー、と感心してくれた。
「ふっふっ」といい気になって花を拾いつづけていたら、自転車に乗った低学年の男の子がヘンな顔をしてふり返った。
地べたにしゃがんでごそごそしているおばさんは、やっぱりヘンかもしれない。

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去年はトルクメン絨毯の上に桜を載せて遊んだが、今年は「バルーチと桜」。

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トルクメンもそうだが、バルーチ絨毯を写真に撮るのは難しい。

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ブログに載せるため何枚も写真を取っても、PCで見てみると実物とはかけ離れていてガッカリすることが多い。
でも桜を載せて撮ると、絨毯だけのときよりも実物に近く写るようだ。
このオーベルジーヌ(茶紫)や透明感のある青や赤、まあまあきれいに撮れている。

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わたしにとって部族絨毯の最大の魅力は、質の良いウールと深く透明感のある染色。
写真ではその魅力を伝えることが難しいとわかっていても、できるだけ綺麗な写真を届けたいと思うので……

* * *

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2枚目のバルーチ。セルベッジが4本ケーブルで、かなり強くデプレスが効いた珍しいタイプ。
「デプレスが効いている=絨毯が曲がりにくい」ことから、バッグフェイスではなく小型絨毯かもしれない。

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パイルが垂直に近い角度で立っていて、とてもしっかりした感触。
定住もしくは半定住のバルーチが売るために織った絨毯のような気がする。

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デザインも「ミナハニ文様」と呼ばれる、ペルシャ都市工房でも好まれたデザイン。

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特徴的なのが、まさに「真夜中の青」ミッドナイトブルーとでも呼ぶべきインディゴ染色の深さと濃さ。
ここまで深いインディゴを出せるのは、やはりプロの染め職人ではないだろうか。

* * *

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3枚目もミナハニ模様だが、完成度が高い上の絨毯と違って素朴さが残る。
バルーチではなく、北西アフガニスタンの「アイマック」と呼ばれるグループのものかも知れない。

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パイルの長さも、バルーチタイプの中ではやや長めで、撫でるとすべすべして気持ちがいい。

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茜もそれほど強くなく、ほんわかした色。茶・インディゴ・白とのバランスも落ちついている。

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桜も気持ちよさそう〜 ♪

* * *

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4枚目は、かなりレアな意匠のバルーチ。

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キリッとしてハンサムなバッグです。これはかなりの通好みだと思う。男子が好きそう……


これは裏が残っている完品ですが、袋の底に穴が開いています。
擦り切れたというよりも、ネズミにかじられたようにザックリ切れています。

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写真上部の「魔法のファスナー」はじめ、浮綾織りやもじり織りなど上手いなあ〜!

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こんなモダンな文様のバルーチはほとんど見たことがありません。
バッグの大きさも他のバルーチに比べてかなり小さい。

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パウル・クレーにプレゼントしたいな〜♪

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しつこいので、この辺でやめます。

* * *

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5枚目はバルーチではなく「タイムリ」と呼ばれるグループのものかと思われます。布みたいに薄いんですよ。

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このバッグフェイスも写真撮るのに苦労するタイプですが、桜のおかげで実物の感じがそれなりに出ています。
桜さん、ありがとう! (どっちが主人公なんだか……)

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この様々なトーンの青を見てください。
群青色・藍・緑など、一枚のバッグフェイスにじつに複雑な青が使われています。
部族絨毯のこういう素晴らしさをもっと多くの人にわかってもらいたいなあ〜!

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経糸にも柔らかな細い糸が使われています。
バルーチもそうですが、タイムリはパイルを短くカットする傾向が強いようです。
だから「使用により擦り減った」以前に、もともとパイルが短いわけ。

* * *

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6枚目は蛸唐草に似た文様が使われているバッグフェイスですが、
非対称結び(ペルシャ結び)なのでバルーチ対称結びのグループのものではないと思います。

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カラー・スキームもイラン北西のホラサン地方というよりは、南に下ったシスタン地方のものでしょうか?
緑がきれい〜!

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そうそう、桜を忘れちゃいけませんね。桜あっての絨毯の写真です……

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百年以上前の絨毯に、今年の桜がつどいます。

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咲いたばかりの桜のみずみずしさを、古〜い古い絨毯が受け止めます。

* * *

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7枚目は桜より派手じゃないかと思うような「スノー・フレイク」と呼ばれる文様のバッグフェイス。

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「雪の結晶」を意匠化したようですが、華やかすぎて桜と張り合ってます。
「あたしたちのほうがキレイよ!」「なによっ! あたしたちのほうがキレイに決まってるでしょ!」 (-_-;)

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「キック、キック〜!」
おっ、スノーフレイク・グループが桜グループを追い出しにかかっている!

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「キーッ! ふざけんじゃないわよ! この季節はあたしたち桜が主人公に決まってるでしょ!」

* * *

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さて「桜とバルーチ」シリーズの最後は、長老ドホタレ・カジ祈祷用絨毯で〆ていただきます。
「ドホタレ・カジ」というのは「裁判官の娘」という意味ですから、調停役にはピッタリ。
(ちなみに「カジ」を「闘いのヒーロー」と取る解釈もあり、要するに部族のリーダー的存在ということのようです)

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うーん、この風格。やはりすばらしい。
先日、神戸からお客さまをお迎えしたときドホタレ・カジのコピー絨毯を並べてみたのですが、貫禄の差は歴然でした。

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スノー・フレイクと張り合っていた桜も、長老の上で気持ちがなごんだようです。
「じいちゃ〜ん! 安心したよう〜!」

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「よしよし、ワシが守ってやるから安心しなさい」

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「じいちゃん〜、ステキ〜! 甘えちゃおかな〜」

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「よしよし、みんなよい子だ、ねんねしな〜♪」

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「じいちゃん、やっぱり頼りになるわあ〜❤❤❤……スキ〜!」

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今年の桜まつり、絨毯の上では終了ですが、
日本全国は北上しつつ、まだまだつづきます〜♪
みなさま、よいお花見を!
2013.12.17 Tuesday

バルーチ絨毯のデザインについて


"Rugs of the Wandering Baluchi" の内容はまだまだあるけれど、
紹介はとりあえず今回で終わりにしたいと思います。

ジョン・トンプソン氏の文章で残るは「デザイン」なのですが、これが手ごわかった。
ひとつは私の英語力が低すぎて、文章の細かいところが解らなかったこと、
もうひとつは、私の持っていない絨毯関係の本やテクストを引き合いに出して比較しているため、
「マクミランのプレート○○」とか言われても、サッパリ解らなかったのでアリマシタ。(>_<)

ただしテーマとなっているのは、
「バルーチは、他の絨毯からデザインを借りてばかりで、独自のデザインを持っていない」
という説を検討することで、それに対する氏の結論としては、
「コピーもあるが、バルーチ独自のデザインもある」とのこと。

* * *

まず「コピータイプ」からご紹介しますと、トルクメンの「サロール・ギュル」を真似したもの。

Scan10006.JPG
これは同じ本掲載の、Noel Hobbs 氏によるサンプル。
Sarakhs から Merv あたりをテリトリーにしていたバルーチのものということで、
イラン北西部とトルクメニスタンの国境近くなので、トルクメンとの接触も多かったのかもしれません。

Scan10030.JPG
こちらが元祖サロール・ギュル。
でもこのサロール・ギュルは、同じトルクメンのテッケやサリークもコピーしましたし、
アフシャールやクルドがコピーした、どうもキリッとしない「ゆるギュル」絨毯もあるようです。

つぎに、バルーチがアフシャール絨毯をコピーしたと思われるPlate32。
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織りも上手だしバランスのとれたピースだと思います。
フィールドはアフシャールっぽいですが、ボーダー・デザインはたぶんバルーチ独特のもの。

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こちらはM.Eiland著 "Oriental Carpets"よりアフシャール絨毯。
左端がスキャンに写らず欠けていますが、これまたこれでカワイイ絨毯!
色合いも違いますが、絨毯にただよっている雰囲気がバルーチとはずいぶん違いますね。

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これは以前ご紹介したPlate8ですが、斜めストライプのデザインはカシュガイやルリ族がよく使うようです。

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これも上記 "Oriental Carpets" より、ルリ族の絨毯。

* * *

こういったことから、バルーチは一時「独自のデザインを持たない」と言われていたようなのですが、
バルーチ独自のデザインは、やはりあるのです。

その代表格は、"The Tree of Life"「生命の木」デザインの祈祷用絨毯。

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Plate4。 バルーチの祈祷用絨毯は、ミフラブが独特の形です。
茶色の部分にラクダの毛を使った典型的なバルーチ・プレイヤー・ラグ。

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こちらはPlate18のバッグフェイスですが、中央の文様もバルーチ独自だということです。
八角星を取り囲んでいるのは、「動物か鳥」ではないかと言うのですが、うーん、ビミョー……

* * *

「バルーチは、16〜17世紀のペルシャ絨毯に使われたボーダーデザインも真似しているが、
イスラム以前のシャーマニズム時代のデザインの流れをくむものもあり、それらが混在しているのではないか」
とジョン・トンプソン氏は書いています。

また、「生命の木」デザインは、
「シャーマン的宇宙観において豊饒・生命・不滅のシンボルとされるWorld Tree を表現したものだ
という可能性はないだろうか?」とも。

* * *

また、バルーチには「ニワトリ」や「トサカ」の文様が多いのですが、
1913年発行の"Encyclopedia of Islam" には
"Baloc" (バルーチのこと)はペルシャ語で「トサカ」を意味するとの記述があります。
当時のバルーチは「トサカのような被りものをしていた」という証言もあるそうです。
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こちらは、バルチャー・コレクションのニワトリ文様のサドルバッグ。
バルーチコレクターにとっては、外せないデザインです。
でも良いものは大変な高値で、私は一枚も持っていません。

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これは私の絨毯ですが、やはりニワトリの頭部のような文様です。
これもバルーチ独自のデザインだと思います。

* * *

私はこの本を読むまで、バルーチが「コピーイスト」と呼ばれていることを知りませんでした。
まあトルクメンはかたくなに自分たちのスタイルを持っているので別格ですが、
さまざまな地域やグループの絨毯は、近隣からの影響を受けてデザインを発展させてきました。

カシュガイ族も他の絨毯をまねる才能にすぐれていますし、
クルド族やアフシャール族もコピーデザインの絨毯を織っています。
なので、どうしてバルーチだけが「コピーイスト」と呼ばれていたのか解りません。

いずれにしてもバルーチの手にかかると、換骨奪胎されて元のものとはずいぶん印象が変わります。
きちんと消化して、自分たちのものにするのであれば、
それはひとつのデザインの発展ではないかな、と思います。

2013.12.10 Tuesday

バルーチ絨毯の年代について


"Rugs of the Wandering Baluchi"でのジョン・トンプソン氏の文章のご紹介
あとは「年代」と「デザイン」についてを残すのみとなりました。
今ちょっと落ち込んでいて、いちいち訳している気力がないので大体の内容の紹介にとどめます。

氏は年代についてあまり突っこんだ議論はしておらず、
2枚の絨毯を取り上げて、その年代を推定しているのみなのです。

まず「20世紀中頃」と推定しているもの。
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この絨毯が若い根拠として、つぎの二つが挙げられています。
・ウール表面の毛羽が取れておらず、ほとんど使われていないように見えること
・化学染料と思われる鮮やかな色がエンドパネルに使われていること

これ以外に私が気づいたのは「さまざまな色のマーセライズド・コットン」が使われている点です。
以前、マーセライズド・コットンについて取り上げましたが、シルクのように化学処理をしたコットンのことで、
1890年代から1930年代にかけてトルコのパンデルマでこの繊維が使われています。
これ以外の情報がないので断定はできませんが、
マーセライズド・コットンがバルーチの手に入ったのは、やはり20世紀に入ってからだと考えるのが妥当でしょう。
また「メタル・スレッド」という、コットンに薄い金属を巻きつけた糸も使われていますね。
トルコキリムで「シム」とも呼ばれる金属糸は、比較的近代的な工場でつくられたのではないでしょうか。

あまり鮮明でない本の写真から実物を想像するしかないのですが、
織りも構成もすばらしく、20世紀中頃のソフレとしては、なかなかの出来ばえだと思います。

* * *

つぎにトンプソン氏が「19世紀後半」としている絨毯です。

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・古いものが持つすばらしい艶がある
・化学染料は使用されていない
・茶色と紫がかった茶色のパイルが朽ちてなくなり、四方が浸食されている
・バルーチ絨毯の真骨頂である、強く深いインディゴブルーと、透明感のある鮮やかな赤の使用

といったことなどから年代を推定した模様です。

この写真からは、例のオーベルジーヌ(茶紫)がどこに使われているのかわからないのですが、
氏によれば、このピースの茶紫の糸は朽ちているとのこと。

この本に載っているバルーチ絨毯のなかに、
年代とともに「朽ちる茶紫」もあれば、「朽ちない茶紫」があり、どうやら染色の技法が違うようです。
うーん、染色の世界は深いなあ!

* * *

この本の中でトンプソン氏は「年代について」これっぽっちしか書いていません。
もっと説明してよ〜、と言いたいところですが、不確かなことを書けば自分の信用にかかわりますからね。

絨毯やキリムの年代は価格に反映されやすく、「古いほど価格は高くなる」傾向にあります。
もちろんそれ以外に「産地」「ウールの質」「織り技術の高さ」「色やデザイン」「コンディション」
あるいは「希少さ」などの要素が加わって、値段が決まっていくのですが、
「定価」というものがないために、初心者には難しい世界であることはまちがいないでしょう。

絨毯やキリムの年代を確定するのに一番確かなのは、炭素による年代測定だと言われていますが
手続きが大変で費用がかさむうえ、じつは測定誤差もかなりある、ということを聞きました。

著名なコレクターが本を出版する場合などは、炭素測定といった大掛かりな作業も必要でしょうが、
ただ好きで集めているわたし程度の人間には無縁の世界です。

絨毯にハマってしばらく経つと、年代がとても気になった時期がありました。
でも今はそれほど気にしていません。 
染め、織り、糸、意匠、これらが良ければ、年代は副次的なものだと思っています。

「本当に良いなあと思えるものは、古いものに多い」というのは実感ですが、
「良いものは古い場合が多い」と「古いものなら良い」とは違います。

* * *

西洋アンティークの岩崎紘昌さん著『だから骨董屋は面白い』を図書館から借りて読みました。
けっこう笑える話があって気楽に読める本ですが、おもしろかったのはマイセンの年代特定。
西洋の骨董、特に陶磁器は、ほとんどのものに製造メーカーのマークが描かれており、
ヨーロッパの業者は取引に際してマークの本や資料を持ち出してくるそうです。

岩崎さんは「18世紀のマークと現代のマークは明らかに違うし、肌の色の風化の具合を見ても
古いものはすぐわかる。しかし、1870年と1890年の差を瞬時に見定めることは、極めて難しい。
私が持っている一つの本のマークはAであり、もう一つの本のマークはBである。
同時代だからすべて同一マークかというと、どうもそうではないらしい」という疑問を持って
マイセンの工場に見学に行っていろいろ質問したのですが、疑問は解決しませんでした。

その後マイセンの博物館に行き、1710年ごろからの古いマイセンの作風をじっくりと見て、
マーク確認のため膝をついて下から覗き込んだり、身体を横にして下から見たりしたそうです。
「警備の人が不審がってあとからついてくるようになってしまった」と、思わず笑っちゃいますが、
本当にモノが好きで、正確な情報を知りたい! と思う気持ちはとても良く伝わりました。

「作風をじっくりと見る」
これって、とても大切なことだと思います。

現在、市場で流通するアンティーク絨毯やキリムは100年前後の物が多いようですが、
それ以上古いものは「作風が違う」と感じることがよくあります。
19世紀末は、たとえばアナトリアンキリムの全盛期で、色づかいの美しい華麗なものが多いのですが
19世紀中葉やそれ以上前のものは、「華麗」という言葉とはどうも違う。
もちろん産地による作風の違いもあり、トルコでも西部・中部・東部・南東部ではずいぶん違います。
でも産地とはまた別の、時代による作風の違いもあるような……
時間の流れがゆったりとして、意匠もキチキチに詰んだものでなく、のびやかさを感じることが多いのです。

そのうちこのテーマの記事が書けたらいいなと思っていますが、
「作風をじっくりと見る」
このことは、一見お門違いのようでいてじつは年代に迫るヒントでもあるし、
美しい染織とはなにかを考えるうえで、とても大切なことだと思われます。




2013.11.21 Thursday

Rugs of the Wandering Baluchi ジョントンプソン博士の巻その2


ジョン・トンプソン氏の文章に復帰しまして、今回はその2です。
が、その前に、デプレスのきいたバルーチ絨毯の写真を補足。

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白糸の部分に顕著ですが、ノットが独立していて、結び目が蝶々や貝のようにはなっていません。

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こんな感じでパイルがみっしりして、織り曲げるのに少し抵抗感があります。しっかりした感触。

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上がデプレスなしのバルーチ。織った部分が割れたようになり、地組織が見えますが
下のデプレスが効いたバルーチは、折り曲げても地組織が見えません。

さて、ジョントンプソン氏の文章です。

色と染色
「言葉で色を説明することは絶望的に難しく、また、この問題を解決する方法はないこともわかっている。標準色チャートさえも、斑のある色彩の場合は助けにならないだろう。私は結局「紫がかった茶」とか「茶色っぽい紫」といった不十分な説明をすることになった。色が人間の目に映るときには、隣の色と色とが混じり合った複合的な色となるものである。

 

(バルーチ絨毯の)青は決まって素晴らしく、見事な深みのある濃紺の絨毯が多く見られる。水色が使われることは少ないが、22番の絨毯ではそれが上手に使われている。赤系統も最高レベルのもので、どんな絨毯にも引けを取らないような、透明感がある明るい赤も何枚かの絨毯に見られる。まれに緑色も使われるが、青味がかったものが多いのは、黄色が日光に強くないことを示している。いちばん多く見られるのは、ハエを思い出させるような玉虫色の緑である。それ以外、特に目立ったものはない。」

 
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"Rugs of the Wandering Baluchi"より plate22の絨毯

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わたしのバルーチ絨毯より
トンプソン氏のいう「透明感のある明るい赤」とは、どんな赤のことだろう?
多くのバルーチ絨毯の赤は「年数の経った渋めの茜」とインディゴがメインだと思うが、
上の写真の右側の赤は「透明感があり明るい」。左側の茜はよく見られる渋めの赤。
ただしバルーチは実物の色がもっとも再現しにくい絨毯なので、実際はこれより明るい赤です。
また、下記で述べられている「オーベルジーヌ」という茶色がかった紫は、この写真の二枚にも使われており、紺のそばに配置された色。右は明るめ、左はやや暗めのオーベルジーヌ。
ああー、実物をお見せできないのが残念〜!


「透明感と豊かな味わいがある「茶色がかった紫」も見られるが、これは鉄を媒染剤にした茜だと思われる。この色はまったく腐食しないか、ほとんど腐食が見られない。この色を私は「aubergine(オーベルジーヌ・茄子色)」と呼んでいる。残念なことに、それほど多くは見かけない。似たような色でもっと頻繁に出くわすのは、腐食しやすい性質を持っている。羊毛がダメージを受け、弾力性と艶が失われる。鉄を媒染剤にしている点では同じだが、技術が違うのかもしれない。年代の新しいもので、赤色または茶色を帯びた紫も見受けられるが、それらは羊毛が腐食したりパイル表面が褪色したり、その両方の現象がみられたりする。表面は茶色っぽくなっているが、裏側を見ると青紫なのだ。見たところ、このような染料に茜は使われていないし、西洋から入った化学染料だと思われる。


M.ホワイティング教授は、染色業者によって長く信じられてきた「合成アリザニンと天然茜による染めは見分けがつかない」との説を打ち砕いた。天然茜で染めたものは、アリザニンを最大成分としながらも、少なくとも4種類の赤をつくりだす色素の複合であることが、今日では明らかになっている。実際の赤の色相は、アリザニンだけでなく、染める際に使われる他の少量の色素によって決まるのだ。したがって日光による褪色という弱点がないにしても、アリザニン単独では、天然染料による染めの微妙な色のバリエーションを出すことはできない。

 

染めていない茶色のウールがパイルとして使われたものにはバラエティに富む色が見られる。だがそれよりは、こげ茶に染められたウールの方が多く、この工程はウールの腐食を早める。このことだけでも、バルーチ絨毯を使ったときの耐久性という点では問題になる限界のひとつと言えよう。ただしこのおかげで凹凸ができ、おもしろい効果を持つ場合もある。」

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わたしのバルーチ絨毯より
茶色の部分のウールが腐食してなくなり、レリーフのようになっています。
こげ茶でなく薄茶色ですが、やはり鉄の媒染剤を使ったのでしょう。

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このバッグフェイスはバルーチにしては織りがユルく、ほのぼのした感じです。アイマックかも?

「質のよい黄色が使われているものは珍しい。黄色が使われているものはたいてい褪色している。白は控えめに使われる。それ以外の珍しい色が僅かに数ノットのみ使われているケースもまれに見られる。古いものではマゼンタ色のシルクが使われているものもある。それ以外では、ライムグリーン・モーブ(筆者注:この表現は、私は化学染料という意味で使っている)・黄色・ピンクのマーセライズド・コットンや、似たような色のシルクが見られることもある。」

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わたしのバルーチ絨毯より・裏側の写真
「差し色」として使われている黄色・ピンク・紫。
バルーチにも「マーセライズドコットン」が使われているというのは初めて知りました。
このピースに使われているのはシルクみたいですが、染料はケミカルっぽい感じです。
バルーチはシックなのが魅力なのに、これはちょっと例外?

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表側はけばけばしい色がずいぶんパイルに埋もれているので、裏側ほど嫌みじゃないです。
ちなみにインディゴや赤のそばにあるオーベルジーヌ、すこしイメージがつかめるでしょうか……

ジョントンプソン博士の巻は次回もつづきます……
乞うご期待! or もう飽きた? 

2013.11.15 Friday

バルーチってどんな人たち? Rugs of the Wandering Baluchiより


ジョン・トンプソン氏の文章のつづきを掲載するつもりでしたが、ちょっと作業に難航しているので
今回は同じ本から、バルーチの人びとについての報告を取り上げたいと思います。

"Rugs of the Wandering Baluchi" は、バルーチ絨毯の本格的研究の先駆けとなった本なので、
いま読むと、いろんなことが未整理だったことがわかります。

以前、「"真正バルーチ"と"バルーチタイプ"を見分けるのは難しい」といったことを書きましたが、
この本で取りあげられているピースも、本当のBaluch でなく、Timuri や Aimaqのものがかなり含まれているようです。

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"TRIBAL RUGS" by W.MacDonald より バルーチのおおよその居住区域

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同上 アフガニスタンの諸部族の分布図

この中で、緑色のTimuri 、水色のMushwani 、ピンク色のChahar Aimaq の織る絨毯は
バルーチのものによく似ているため、市場では「バルーチ絨毯」として売られることが多いようです。

ただどれをTimuriでどれをMushwaniに区分するかについては専門家でも意見が分かれており、
Chahar Aimaq(4つの遊牧民) はもっとややこしく、
上の本では、Taimani  Firuzkuhi  Jamshidi  Hazara of Qala-i-Nau となっています。

やや諦め気味に「バルーチタイプ」にしとけば間違いないだろう、といった現状のようです。

* * *

もう一度最初の地図を見ていただきたいのですが、
市場に出ている「バルーチ絨毯」は、じつは「バルチスタン」で織られたものではありません。
バルチスタンで織られるのは平織りが中心で、まれに絨毯が織られるケースもあるようですが、
それらは自家用に使われるのみで、市場には出回らないと聞きました。
なので私たちが目にするバルーチ絨毯は、北のホラサン地方からシスタン地方にかけての地域のもの。

(ちなみに松井健氏が『遊牧という文化』でフィールドリサーチされたバルチスタン「マクラン地方」が上の地図に載っています。)

なんでこんなことをいうかというと、"Rugs of the Wandering Baluchi"の
Jack Jackson 氏へのインタビューは、バルチスタンで会ったバルーチの話であり、
ホラサンやシスタンで絨毯を織っているバルーチの話ではないからです。

ただいずれにせよ「バルーチってどんな人たちでどんな暮らしをしているのか?」ということがわかる貴重なインタビューですので、印象に残った内容を以下でご紹介したいと思います。
バルーチ絨毯の研究が進んだ今では、一部違っている、または見解の相違がある内容も
含まれているようですが、あえてそのままご紹介させていただきます。

* * *

ジャクソン氏はパキスタン西部からQuetta にかけての砂漠地帯を旅し、
「砂漠あるところにバルーチあり」と、バルーチの人びとが極端に水が少ない場所で生きていることを知ります。

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「あまり知られていないが、トルクメニスタンにもバルーチが住んでいて(その一部が)アフガニスタンに移住した。
一部のバルーチ絨毯の由来はそこから来ており、
黒い八角形のデザインのバルーチ絨毯は、トルクメンからコピーした可能性がある」

(政府による遊牧民定住政策の圧力にたいして)
「パキスタン政府は遊牧民の部族を解体させることに成功はしていない。
移動生活の伝統は根強いものがある。
イラン政府は多くの部族に苦難の時期をもたらしたが、
イラン在住のバルーチは遠隔地ということもあって、それほど政府に悩まされずにいるようだ」

「バルーチには強固なトライバル・システムが残っている。
男は部族の中で自分の位置があり、ひとつの部族は他の諸部族の中での位置があり、
伝統にのっとってリーダーが選ばれる。
いま彼らは自分たちの国家をつくろうとしているが、パキスタン政府がリーダーを投獄して2年になる」

「部族集団は4〜5の家族と15〜20頭のラクダの単位で行動する。
グループが大きすぎると、水の確保が難しいからだ。
過酷な気候は家族の結びつきを強め、一族の財産を守るためにいとこ同士の結婚が多く見られる」

(バルーチ絨毯が暗い色合いばかりなのは、鮮やかな色を出せる植生が入手できないからではないか? バルチスタンはどんな気候か?)
「南の気候は灼熱の暑さと極度の乾燥で、1年のほとんど強い風が吹いている。
ここを旅するのはじつに過酷で、一番の問題は水だ」

「山にいるときは、布のテントだけで暮らし、
恒常的に水がある場所では、泥の小屋に住んでいる。
砂漠では、何の飾りもない葦で編んだテントを使う」

(1910年の旅行記には、彼らが馬を好むと書いてあったが……)
「私は彼らが馬を連れているところを見たことがない。
遊牧民はラクダ、半遊牧民はロバを使う。
砂漠が多いところではやはりラクダがいちばん頼りになる。
家畜としては、ヤギが多く見られる。
もし羊を見かけるとしたら、ファットテイル種だろう。
山に野生の大きな羊がいるが、たくさんはいないし、飼いならせない」

「写真を撮る機会があれば、彼らは定住した農民よりもずっと誇らしげに見えるだろう。
彼らは物々交換で得た布を縫い合わせて、これでもかというほど大きく頭に巻きつけている。
その布をはずしたところを見たら、髪はとても短かったが、ヒゲは伸ばしていた。
女性は今は髪を長く伸ばしている。
バルーチとパシュトゥーンは言語以外はよく似ている。
バルーチにはあまり蚤はいないように見えた。
女性は彫った顔飾りをつけ、顔をベールで隠すことはない」

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* * *

まあ、ざっとこんな内容がインタビューに書かれていました。

次回こそはガンバってジョン・トンプソン氏の第2回目をやりまふ! (・へ・)

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