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2013.03.09 Saturday

好きな絨毯は人それぞれ


仕事を辞めて二週間ほど経ち、ここらで一度、家にあるモノたちの整理をしようと思っている。

7000円の特売ギャッベからはじまった「じゅうたん熱」がヒートアップしすぎてしまって
バランス感覚のある人から見たら「ちょっとどうにかしている」と思われるほど、キリムや絨毯を集めてしまった。
ふり返ってみれば、自分のテイストもその"発展段階"に応じて変化している。

まず心を魅かれたのがギャッベで、このブログの最初のほうに二枚ほど写真を掲載しているがすでにヤフオクで手放した。
最初のころは、絨毯が「もったいなくて」足で踏めなかったから、ギャッベですらほぼ未使用だった。

やがて、ギャッベを売っているネットショップで「キリム」と呼ばれる平織りの織物も売っていることを知る。
キリムの一部にパイルが埋め込まれた、いかにも可愛いデザインの「ギャッベ・キリム」を買ったり、
イランだけでなく、「キリムといえばトルコよ!」というわけで、
おそるおそるトルコのオールド・キリムを使ったクッションカバーを買ったりした。
「へえ、これがオールド・キリムというものかあ」……
色褪せ、人に使われた独特の風合いを、じーっと見つめたことも、いまから思えば懐かしい。
いわゆるオールド絨毯にはほとんど化学染料が使われている。
鮮やかすぎる化学染料も、正直言ってあのころはそんなに抵抗がなかった。
もともとカラフルな民族雑貨やエスニック衣類が好きな方だったから、
けばけばしい色が使われたピースも、「にぎやかで元気な感じ!」と喜んで購入していたのだ。
でも何度もそれらを手に取って眺めるうちに、良い染料と悪い染料の違いが分かるようになり、
化学染料が使われているものはやがてほとんど手放してしまった。

この前写真を載せた「イラン北部に住むトルクメンの新しい絨毯」や、「トルクメニスタン産の新しいトルクメン絨毯」を買ったりしたのは、
そんな試行錯誤を繰り返していた初期のころである。
日本で手織り絨毯といえば「ペルシャ絨毯」くらいしか聞いたことがなかった私が、
トルコや、アフガニスタンなどでも絨毯がさかんに織られていて、
購入した新しい「トルクメン絨毯」は、「部族絨毯」と呼ばれるカテゴリーに入る、などということも知った。

その後、アフガニスタンのオールド絨毯に魅せられた。
茜は絨毯では欠かせない定番の色だが、一つとして同じ茜色はない。
朝・昼・晩の光によって、いつ眺めても異なった表情を見せる。
アフガニスタン北部に住むトルクメンのオールド絨毯に夢中になり、ずいぶん集めた。

アフガニスタンのトルクメン絨毯は打込みがしっかりしていてウールの質も高いものも多い。
毎日眺めていても飽きないデザインと落ちついた色合い。
耐久性のある落ちついた絨毯を探している人にとっては、一つの良い選択肢だと思う。

ただしアフガン絨毯にも、意外というべきか、けっこう化学染料が使われている。
私は「アフガンはイランやトルコとちがって化学染料の普及は遅かった」と思いこんでいたのだが、
茶・赤・紺といった基本色にさえ化学染料が使われているものも多いことがわかってきた。

絨毯を選ぶ際、「ペルシャだから最高」「トルコだから丈夫」「アフガンだから自然」といった謳い文句が
いかに限定的な定義であるかが分かってきたのもこの頃だと思う。

今なら、自分のなかにある程度「いい絨毯やキリム」の価値基準ができているので
一枚一枚の毛織物に向き合って、一定の判断ができると思うけれど
それはこれまでにさまざまなモノと出合って、失敗の経験を積んだからだと思う。

けれども、私が良いと思う絨毯は、必ずしも他人にとって良い絨毯ではない。
結局、好きな絨毯は人それぞれ、絨毯は好み、なのである。

* * *

1680060.jpg

さて、こちらはアメリカの絨毯マニアが発行していた"ORIENTAL RUG REVIEW"という雑誌。
絨毯雑誌といえばロンドン発行の"HALI"が有名で、ゴージャスな絨毯の写真や、オークションハウスの高額落札結果に目を丸くするけれど、
こちらの雑誌はせいぜい60ページくらいで、記事も親しみやすいものが多くて好感が持てる。

1992年の秋号に、オランダの絨毯コレクター、Jan Timmerman 氏へのインタビュー記事が載っていたので面白く読んだ。
欧米の絨毯コレクターも高齢化が進んでいるようだが、蒐集をはじめたのは早い人でも60年代〜70年代からだと思う。
氏は1950年代初めから絨毯の蒐集を始められた方で、そういう意味で大ベテランである。
オランダの大きな保険会社の社長さんで、海外出張の機会が多く、主にヨーロッパ各国と北アフリカで蒐集をされたらしい。

Scan10006.JPG
Jan Timmerman 氏

この写真のキャプションには「ペルシャ北部の友達と。『魅せられたのが根付だったら良かった』」とある。
ヨーロッパでは根付コレクターが多く、かなりの良いものが日本からヨーロッパに流出したと聞くが、
氏が言いたいのは、「根付なら小さいのでたくさん集めてもスペースを取らないし、手入れの手間もかからない」ということ。

ところで、このインタビュー記事に触発されたアメリカのコレクターJohn Howe氏が、
turkotekというサイトで絨毯マニアやコレクターに次のような質問を投げかけている。

1. あなたは主にどこで、誰から絨毯を買いますか? 
2.あなたはどのくらいのペースで(期間で)あらたに絨毯を買っていますか?
3.あなたにとって「収集(蒐集)」する基準は何ですか? 
たとえば「これは美しい絨毯だが収集の対象ではない」と考える基準は?
4.購入を決める際、絨毯のコンディションはどこまで気にしますか?
5.購入した後、絨毯をどうしていますか? 保管しますか、飾りますか?
6.購入した後、絨毯の産地を特定したり、織りの構造を分析したり、文章にまとめたりしますか?
7.絨毯の知識をさらに得るために有益な情報源をもっていますか?
たとえば本、絨毯愛好会、信頼できるディーラー、コレクター仲間、絨毯学術会議など。
8.絨毯を収集しはじめたときと今とで、好みは変わりましたか? 時々コレクションを手放していますか?
最初に買った絨毯を今でも持っていますか? そして、それらはどういう理由からですか?
9.もしあなたが余命幾ばくもないと分かったとき、自分のコレクションをどう処理しますか?
10.収集を始めたばかりの初心者に、これ以外に何かアドバイスはありますか?

これはコレクターへの質問なのでやや特殊ではあるけれど、なかなか面白いテーマが含まれていると思う。

* * *

「なぜ絨毯の穴と仲良くなったのか?」という見出しのごとく、
Jan Timmerman 氏はコンディションにはこだわらず、自分が美しいと思う絨毯を求めて遍歴をつづけた方。

氏は学生のころから古書、古い瓶、スケート靴などを集め、いわゆる蒐集癖があったようだ。
第二次大戦後まもなく、当時アムステルダムに絨毯コレクターのクラブがあり、
氏はそこで知識豊富で魅力的な年配のコレクターたちと知り合い、彼らから多くのことを学ぶ。
当時の蒐集対象は、(アルバート美術館やメトロポリタン美術館など)超一流の美術館に展示されているようなクラシカルな絨毯だった。
そういう意味では、部族絨毯を含む、宮廷絨毯以外のコレクターの草分け的存在かも。

氏が最初に買った絨毯は、小さなアンティークショップにあったトルクメンのマフラッシュ。

Scan10008.JPG
うーん、これ見ると、さすがという他はない。(ワタシなんか7000円の特売ギャッベですからね!)
このマフラッシュは左側が欠損しているものの、まさに玄人好みのピース。
ヨムートのものということだが、みごとな構成。
文様もレアで、トルクメン・コレクターはさぞ欲しがるだろうピース。

次に買ったのは仕事で出かけたエジプトにて。
「イーグル・カザック」と呼ばれるコーカサス絨毯だったが、「後になって、ずいぶん高く買わされたことに気づいた」。
おまけに当時は時づかなかったが、かなりリペアがあって、リペアの糸が褪色してしまったという。
それからさらに3枚の絨毯を求めたが、氏いわく「芸術や歴史など専門的な知識からというよりは、ただ美しいものに囲まれて暮らしたかったから」。

その後、店をのぞいたり、ディーラーやコレクター仲間たちと交流して知識を高めたり、カイロなどの博物館にあるアンティーク絨毯を見たりした。
もちろん本からも学んだが、今とちがって絨毯に関する本もそれほど多くはなかったらしい。
ワシントンでの国際絨毯会議は自分が議長の仕事があったため参加できなかったが、ICOCもすべて参加した。

「本や文献、ラグソサエティ、絨毯学術会議などのうちで、より重要だと思われるものは?」という質問には、
「本は、クラブよりも、私に多くの間違った見解を教えた。
絨毯クラブでは、実物を手にとって他の人びとと語り合うことができるのに対し、
本では『これがすべてだ』という印象を与えるからである」。

そうー、たしかに言えてる〜。私の経験でも、ちょっとクエスチョンマークがつく叙述も見かける。
ただ、問題意識をもって本を読んでいれば、書いていることが信頼できそうかどうかは大体判断がつくとは思うけど。

もうひとつの本の問題点として、「この本には自分が持っていないプレイヤーラグが載っている。
自分も(代表的な絨毯はひととおり)持つべきだ」と考えがちになったこと。
そのようにして揃えた絨毯は、時間が経つと自分はそれほど好きでないことがわかり、結局手放すことになったという。

ふんふん、これも言えてる。
私も、トルコ・イラン・アフガン・コーカサスと「有名どころのキリム」をひと通り集めてみようとしたが途中で挫折。
結局、自分が好きなのは、「艶があって長繊維のウールを使い、織りが細かく薄めのキリム」ということが分かり
そうでないキリムはほとんど手放すことになった。

さらにインタビューでは、収集に夢中になるあまり、良いモノも集まるが、いま一つのモノも集まる。
後から考えると、後者は「買うのを急ぎすぎた」と言うべきかもしれないが、それは勉強代と考えるしかないという。
これもよくわかる!「失敗ゼロのコレクションはあり得ない」!

氏は国内はもちろんのこと、海外出張の際も早起きをして「蚤の市」を回ったという。
1950年代から60年代にかけては、蚤の市でもいわゆる「掘り出し物」の絨毯があったらしい。特にパリ!
今では「価値のありそうな絨毯」は、蚤の市なんかには出さない。ディーラーに頼んで
運が良ければオークションハウスで高く売れることを知っているから――だって。

生涯最大の失敗は、1965年前後にマドリードで「ロット・ラグ(オスマントルコ絨毯)」を買わなかったこと。
ブダペスト工芸美術館にあるような逸品で、色もすばらしく値段も「もってけドロボー」価格だったのに、
なぜか「またチャンスがあるだろう」と思って買わなかった。
結局その後は「ロット・ラグ」に出会うことはなかったそうな。

「コレクションの保管」については、「ホウキの柄」に絨毯を巻きつけて保管している。
「だれかが私の誕生日にプレゼントをくれるというのなら、
絨毯をくれるという選択肢はありえない。ぜひホウキの柄をプレゼントしてほしい!」

絨毯を買った後、織りの技法や構造について分析したりすることはない。
「アートとして美しければそれでいい」タイプ。

Scan10009.JPG

コーカサス絨毯 Lori Pambakとよばれるタイプの初期のもの

「私が好きになるのは、ほとんどフラグメント状態だったり、穴がいっぱい開いていたり、
(パイルが剥げて)絨毯のベースがむき出しになったものが多い」

うんうん、よーくわかります! 
個人的にはパイルの毛先がほとんどなくなって、結び目が露出している部分がつやつや光っているのなんか最高!
そのためには上質のウールと良い染めでないとダメ。
「古い絨毯が好き」といっても、モチロン、古ければ何でもいいわけじゃない。
ウールでも、染めでも、織りでも、質の「良い絨毯」と「良くない絨毯」というのは、昔からあったはず。
でも「良くない絨毯」というのは、一定期間使われた後、つまり「モノの使用価値」が尽きれば捨てられたのだろうと思う。
ボロボロになって、敷物としての「使用価値」がほとんどなくなっても捨てられずに残っている絨毯は
やはりある種の美しさを備えていたから、捨てるには忍びなかったから生き残ってきたのだと思う。

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やはりコーカサス絨毯で、初期の「カザック」

氏のお気に入りの絨毯の写真を掲載しても、似たような実物をご覧になったことのない方は
この絨毯の風合いや色をイメージすることは難しいと思うけれど、
底光りするようなウールと、歳月を経て熟成した天然染料が輝くさまは、本当に美しい!

……とはいうものの、実物を見てもやはり「好み」の差は大きいようす。
最初に出会ったアムステルダムの絨毯コレクタークラブは高齢化により消滅したため、
絨毯クラブを新たにつくろうと試みた時期もあったようです。

アート愛好家の男女が集まるグループなどを対象に、絨毯の実物とスライドによるレクチャーを開くと参加者も喜んで、
「また次もお願いします」と言われて何度か開催したのだが、「結局私の言いたいことは伝わらなかった」。
というのも、「ひどい色で、空っぽのデザインの最悪の絨毯」を見せて反面教師としようとした際、
「私が話しはじめるや否や、ある女性が『まあ、なんて華やかな綺麗な絨毯!』と叫んだのです。
私はその絨毯を横に放り出して、話題を変えました」とのこと……

まあ、そんなこんなで、アムステルダムに新たな絨毯クラブをつくる夢は潰えて
「絨毯コレクターをコレクトする(集める)ことは、絨毯をコレクトするよりもずっと難しいことが分かった」そうな。
オランダはオスマントルコ時代から、絨毯が根づいた国だと思っていましたが、なかなか難しいもんなんですね。

また、膨大な量のコレクションをどうするか、という問題に対し、氏はかなりリアリスティックな判断をしています。
「私は美術館には寄贈しない。なぜなら美術館にはそれほどストックルームはないし、
彼らは目玉になる良い絨毯が一枚あれば、それで満足だからだ。
私が万が一の時は、オークションハウスに持ち込んでさばいてもらうことを希望する。
私のコレクションのなかにだれかがずっと探していた絨毯があれば、手に入れた人はハッピーになれるじゃないか。
それに娘たちにはちょっとした収入になる」
うーん、うーん、ここらへんはすごくビミョーなところで、何とも言いがたいけれど、
現実を見据えるならば、たぶん、氏の判断は正しいと思います。

インタビュー最後の質問、「絨毯を集めている読者へのアドバイスは?」に対しての答えがすごい!
「自分が本当に好きなものだけを買い、他人のアドバイスには決して耳を貸さないように!」

* * *

WOW! これが絨毯を50年集めつづけてきた人の結論なのか!
でもこれが冗談や皮肉でないということ、私には何だかわかるような気がします。
結局、自分が好きな絨毯が良い絨毯なんだよね。
けだし名言であります。

コメント
スバラシイ テキストをありがとうございます!

「自分の好きなものだけ」・・アートコレクションの基本ですね。

私もちょっと集め散らかしているので整理したいと思います。勉強代を収めて、さあ、ここからが本当のコレクターライフ!と思います。
my favorite rug をお供に楽しい人生を送りたいですね!
  • April
  • 2013.03.09 Saturday 21:22
今回かなりオタッキーな記事なので不安でしたが、コメントありがとうございます。
rugrabbitなどでも、いかにも絨毯の本に載っていそうなコレクターピースばかり出す人や、ボロボロのものばかり出す人など、いろんな人がいますが、「自分が好きなものだけ集めた」ということがわかる人のコレクションは、はたで見ていても気持ちがいい。
そう、これからが本当のコレクターライフ!
一緒に楽しく人生を送りましょう!
  • ぷぎー
  • 2013.03.10 Sunday 07:14
初めてコメントさせていただきます。
収集されている絨毯・キリムのレベルは、私とは「月とすっぽん」・「雲泥の差」ではありますが、一枚のギャッベからスタートした絨毯・キリム遍歴(?)、知っていくにつれて変化していく好みのお話。また、失敗されたお話など、「私とそっくりだあ〜!」と、とても興味深く拝見させていただきました。
アメリカのコレクターさんの「10の質問」もとても面白くて、それぞれの項目に「はい。私は・・・・。」と答えてしまっている自分がおかしかったです。
オランダのコレクターさんのコレクションにも、うっとりさせていただきました♪
最後の「アドバイス」にも、勇気をもらいました。
ありがとうございました!

  • 奥田博子
  • 2013.03.11 Monday 18:06
奥田さま、コメントありがとうございます!
自分の絨毯遍歴を思い出すと、失敗談も含めてとてもなつかしいです。「私とそっくり!」って言っていただいてホッとしました。
「物買ってくる、自分買ってくる」と言ったのは民藝運動の河井寛次郎でしたっけ? モノであっても多分それは「自分と気の合う友達」を選んでいるような気がします。
本当に好きなものを見つけるまでの試行錯誤自体が、コレクションの醍醐味かもしれません。夢中になれるほど好きなものに出会えたというのは、とても幸運なこと!
これからも好きなものを追い求めていきましょう!
  • ぷぎー
  • 2013.03.11 Monday 19:54
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