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2013.07.10 Wednesday

「糸」にする - spin 紡ぐ&ply 撚る-


前回は、羊毛を「梳く」ところまででしたが、今回はそれを「糸」にする話。
梳いた羊毛はふわふわの状態なので、織るためにはそれを「糸」にしなくてはなりません。

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『絨毯 シルクロードの華』より 糸紡ぎのようす

女性が使っているのは drop spindle と呼ばれる伝統的な糸紡ぎ具(紡錘車)。
使い方は上掲書によると、「通常、左手に梳いた羊毛の塊りをもち、右の手の掌で紡錘を
右膝か右腿に当てて回転させ、はずみをつけて下に落とす。
糸を1メートル位紡いだところで紡錘に巻きとり、新たに羊毛の塊りを掴んで、
途切れなく同じ動作をくりかえしていく」 (P.102)

……これを読むととても難しそうに思えますが、いったんコツをつかんで作業に慣れてくると
子供の面倒を見たり家畜を世話したりしながら、あるいは道を歩きながらでも、作業を続けるとのこと。

キリムや絨毯を織るには膨大な時間がかかりますが、そのための毛糸を手で紡ぐためには
織りにかかる時間の何倍もの時間がかかると言われています。
だから、暇さえあれば片手間にでもずっと糸を紡ぐ作業をつづけていたんですね。

一枚のキリムや絨毯のためにかかった膨大な時間を考えると、
それをつくった人びとへ心から尊敬の念が湧いてきます。
ホント、すごいな〜!

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ネットで購入したトルコの糸紡ぎ具です。
魔よけの意味があるのか、ちいさなミラーが嵌めこまれ、ビーズもついた可愛いタイプ。

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裏にはトルコ語で何か書いてあります。願いのことばかな?
トルコ語が読めないのでネット上の某翻訳サイトで入力してみたら、スペルがちょっと違うのですが
"sizde kalsin eline alan beni"=「あなたは私の手の中に保つことができる」(嗚呼、自動翻訳!)
って出ました。(ちょっと意味シンな感じが……)

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"KILIM The Complete Guide" より  

左はアレッポ、右はペルシャの男性。
カシュカイ族を除いて、糸紡ぎの作業は女性だけでなく男性も行うそう。
また絨毯やキリムを織らなくても、糸紡ぎだけ行うグループもあったそうです。

Scan10005.JPG
"Woven Structures" by Marla Mallett より

紡ぎ車は、作業効率がよい代わりに、移動をくりかえす遊牧生活には向きません。
この写真も西アナトリアで、落ちついた村の生活で使われたものと思われます。

* * *

さて、紡ぐ作業というのは、羊毛繊維をねじり絡めることによって長くつなげていくこと、
いわば、「太さが均一になるようにねじる」ことが、「紡ぐ」作業といえるでしょう。

Scan10007 - コピー.JPG
"Oriental Rug Repair" by Peter F. Stone より

だから繊維をねじる方向によって、
 上図のように「Z字紡ぎ(反時計回り)」と「S字紡ぎ(時計回り)」の二種類ができます。
「Z」とか「S」とか言うのは、繊維の流れを字形にあてはめた上手い区分法ですね。

さて、これで一応「毛糸」と呼ばれるものができました。
このままの状態でも、キリムの横糸や絨毯の横糸もしくはパイルとして使うことができます。

ところが上のような「単糸」は、強度の点でいまひとつ不十分。
とくに絨毯やキリムの構造上、もっとも強度を求められるのは縦糸で、
織っている最中に横糸が切れても、うまく継ぎ足せばそのまま織り進められますが、
もし縦糸が切れたら、織物が崩壊してしまいます。
だから縦糸の強度は、織物にとってとても大切なのです。
そこで行われるのが「ply (撚り)」の作業。

Scan10006.JPG
上掲書より

上は「単糸」を2本使った綛(かせ)、下は2本の単糸を撚り合わせて一本にまとめた「2本撚り」の糸の綛。
強度は下の方が強くなります。

Scan10007.JPG
これも上掲書より。
上から、単糸、2本撚りの糸、4本撚りの糸。

糸を撚り合わせる際、繊維を絡ませるために、ねじり方は単糸の場合と逆になります。
単糸が「Z字紡ぎ」の場合は「S字撚り」、「S字紡ぎ」の場合は「Z字撚り」。
両者の比率はといえば、ほとんどが前者、つまり「Z字紡ぎ・S字撚り」だそうで、
北アフリカの絨毯などごく一部だけが後者だと言われています。

「SでもZでも、どっちでもいいじゃん!」と以前は思っていましたが、
このような織りの構造は、絨毯の産地や年代を特定する有力な情報になることもあります。

たとえばオスマン帝国時代の古い絨毯で「(現エジプトの)カイロで織られた」と考えられているものがありますが、
その有力な根拠は、それが「Z字紡ぎ・S字撚り」ではなく「S字紡ぎ・Z字撚り」だからだそうです。

みなさんもお持ちになっているキリムや絨毯の縦糸をご覧になってみてはいかがですか?
ほとんどが「S字撚り」になっていると思います。(紡ぎがZ字かどうかは分解しないと判らない)
ちなみに織物の上下を逆にしてもSがZになることはありません。

* * *

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シャルキョイ・キリムのフラグメントの縦糸です。2本撚りでS字になっているのが見えますか?

シャルキョイ・キリムは布のような薄さで有名ですが、縦糸も信じられない細さ。
中には縦横4mを超えるような、とても大きなキリムがあるようですが、
こんなに細い縦糸が、織っている最中に切れたりせずに最後まで織り上がるのは奇跡に近い気がします。
もちろんそれなりの近代的な織り機で織ったのでしょうが、
長い繊維のしなやかかつ強靭なウールだからこそ、大きなキリムが可能となったと思われます。

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面白いのは、「岡本かの子ドリ」の中央部分の、紺と水色の糸が混じっているところ。
2本を「撚って」いるのではなく、織るときに「糸を重ねて」使ったようです。

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同じフラグメントの隅の部分。
右手に見える縦糸は、オフホワイトと茶色(どちらも染めていない)を撚り合わせて使っています。

2枚上の写真では縦糸はオフホワイトの2本撚りでしたが、1枚のキリムの中でこのようなケースもあるんですね。
しかも赤の上のインディゴの部分に、オフホワイトと茶色の撚り糸を挟みこんでいます。ご愛敬?

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小さなレイハンルの縦糸。やはり「S字撚り」ですね。

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マラティアのヘイベの端に見える縦糸。やはり「S字撚り」。
ややクリームがかった糸と茶色を撚った縦糸もありますね。

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マラティアとレイハンルの縦糸を重ねてみました。
ウールの色が違うことと、質感の違いも感じてもらえるでしょうか?

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トルクメン・テッケの縦糸。
上はウエディング・ラグ、下はチュバルですが、どちらも縦糸の撚りがほどけてほぼ直毛になっています。
ほかの部族の絨毯は古くても「撚り」が残っていることが多いのに、私のトルクメン・ピースは撚りが解けています。
ウールの質か「梳き」あるいは「撚り」作業に原因があるのでしょうか? 今後の課題です。

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18世紀と言われるヨムートのトルバ(フラグメント)も縦糸はS字撚りです。(右に飛び出ている糸を見てね)
注目してほしいのが、上にピロピロと出ている茶色の横糸。
ハッキリ見えないと思いますが、むっちゃ細い茶色の糸を2本撚り合わせています。
麻の繊維のようなドライな感触、この細さはもはや「毛糸」とは呼べない!

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このヨムートのチュバル(19世紀)の縦糸も、長さがあるのにやっぱり撚りがほどけています。
注目は、たるんで表面にあらわれた横糸。
細いコットン糸(生成り)と細い羊毛糸(茶色)を撚り合わせています。
トルクメンで、「コットンとウールを撚った横糸」というのは珍しいんじゃないでしょうか?

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ベシールのチュバル。縦糸(山羊の毛)にわずかですが撚りが残っています。S字撚りですね。
上にビヨーンとでている横糸(羊毛)もS字撚り。

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同じベシール・チュバルですが、赤いパイル糸を見てください。
ほどけかかっているパイル糸を見ると、赤い「単糸」が2本重ねて使われています。
パイル糸は柔らかいほうが良いので、撚り糸は向かないようです。

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ほとんどの絨毯やキリムは、縦糸がウールの場合「2本撚り」なのですが、
古いコーカサスの絨毯の縦糸には「3本撚り」が使われていると本に書いてあるので確認しました。
この写真ではわかりませんが、糸を逆方向にねじって見ると、たしかに3本の糸でできています。

ひょろーんと下に伸びている細めの糸は横糸です。横糸は2本撚りでした。
縦糸も横糸もS字撚りですね。

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上のコーカサス絨毯、こげ茶色のパイルが取れた部分を見ると、縦糸と横糸がよくわかります。
この絨毯は縦糸が太く、横糸は細めですね。
ちなみに絨毯の上下が逆ですが、パイルは対称結び(トルコ結び)です。

* * *

絨毯やキリムの「糸」ができるまで、こんなに手間がかかっていることをあらためて認識すると
そうやってつくられた絨毯やキリムを、もっと大切にしなきゃ〜という気持ちになります。

(つづく)



コメント
 こんばんは、右利きが圧倒的に多いのでしょうね。器具自体が、右利き用にできているのでしょうか?
 暑くて、眩暈がします^;^
御身体に気を付けて下さい。
        美幸
  • M Ikeuchi
  • 2013.07.14 Sunday 19:22
暑さにはもともと弱いので、7月前半ですでに夏バテという感じですね。(^_^;)
手持ちの紡錘具にテープを巻きつけて試してみましたが、やはり右利きの場合は時計回り(手首を外側に向かって回す)のほうがやりやすいような気がします。そういう意味でZ字紡ぎは理にかなっているのでしょうね。
美幸さまもどうぞ夏バテなさいませんように……
  • ぷぎー
  • 2013.07.15 Monday 07:20
通りすがりのものですが、凝ったキルマンで素敵ですね。
トルコ語は、「私のキルマンを貴方の手元において下さい。貴方は私を手中のものとした(ここは状況によって色んな解釈があり)」という感じです。galsinはkalsinの方言と思います。アゼリー語でもgalsinになるので東の方かもしれないですね。
  • ken
  • 2013.07.15 Monday 22:29
kenさま、トルコ語の意味を教えてくださってありがとうございます! 方言を含め、とてもお詳しいんですね。
美しい細工が施されていることもあって、特別な思いが込められているもののように思います。このキルマンは恋人へのプレゼントだったかも?……
いずれにせよ、どうもありがとうございました♪
  • ぷぎー
  • 2013.07.16 Tuesday 07:43
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