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2013.12.17 Tuesday

バルーチ絨毯のデザインについて


"Rugs of the Wandering Baluchi" の内容はまだまだあるけれど、
紹介はとりあえず今回で終わりにしたいと思います。

ジョン・トンプソン氏の文章で残るは「デザイン」なのですが、これが手ごわかった。
ひとつは私の英語力が低すぎて、文章の細かいところが解らなかったこと、
もうひとつは、私の持っていない絨毯関係の本やテクストを引き合いに出して比較しているため、
「マクミランのプレート○○」とか言われても、サッパリ解らなかったのでアリマシタ。(>_<)

ただしテーマとなっているのは、
「バルーチは、他の絨毯からデザインを借りてばかりで、独自のデザインを持っていない」
という説を検討することで、それに対する氏の結論としては、
「コピーもあるが、バルーチ独自のデザインもある」とのこと。

* * *

まず「コピータイプ」からご紹介しますと、トルクメンの「サロール・ギュル」を真似したもの。

Scan10006.JPG
これは同じ本掲載の、Noel Hobbs 氏によるサンプル。
Sarakhs から Merv あたりをテリトリーにしていたバルーチのものということで、
イラン北西部とトルクメニスタンの国境近くなので、トルクメンとの接触も多かったのかもしれません。

Scan10030.JPG
こちらが元祖サロール・ギュル。
でもこのサロール・ギュルは、同じトルクメンのテッケやサリークもコピーしましたし、
アフシャールやクルドがコピーした、どうもキリッとしない「ゆるギュル」絨毯もあるようです。

つぎに、バルーチがアフシャール絨毯をコピーしたと思われるPlate32。
Scan10008.JPG
織りも上手だしバランスのとれたピースだと思います。
フィールドはアフシャールっぽいですが、ボーダー・デザインはたぶんバルーチ独特のもの。

Scan10028.JPG
こちらはM.Eiland著 "Oriental Carpets"よりアフシャール絨毯。
左端がスキャンに写らず欠けていますが、これまたこれでカワイイ絨毯!
色合いも違いますが、絨毯にただよっている雰囲気がバルーチとはずいぶん違いますね。

Scan10029.JPG
これは以前ご紹介したPlate8ですが、斜めストライプのデザインはカシュガイやルリ族がよく使うようです。

Scan10029.JPG

これも上記 "Oriental Carpets" より、ルリ族の絨毯。

* * *

こういったことから、バルーチは一時「独自のデザインを持たない」と言われていたようなのですが、
バルーチ独自のデザインは、やはりあるのです。

その代表格は、"The Tree of Life"「生命の木」デザインの祈祷用絨毯。

Scan10009.JPG
Plate4。 バルーチの祈祷用絨毯は、ミフラブが独特の形です。
茶色の部分にラクダの毛を使った典型的なバルーチ・プレイヤー・ラグ。

Scan10007.JPG
こちらはPlate18のバッグフェイスですが、中央の文様もバルーチ独自だということです。
八角星を取り囲んでいるのは、「動物か鳥」ではないかと言うのですが、うーん、ビミョー……

* * *

「バルーチは、16〜17世紀のペルシャ絨毯に使われたボーダーデザインも真似しているが、
イスラム以前のシャーマニズム時代のデザインの流れをくむものもあり、それらが混在しているのではないか」
とジョン・トンプソン氏は書いています。

また、「生命の木」デザインは、
「シャーマン的宇宙観において豊饒・生命・不滅のシンボルとされるWorld Tree を表現したものだ
という可能性はないだろうか?」とも。

* * *

また、バルーチには「ニワトリ」や「トサカ」の文様が多いのですが、
1913年発行の"Encyclopedia of Islam" には
"Baloc" (バルーチのこと)はペルシャ語で「トサカ」を意味するとの記述があります。
当時のバルーチは「トサカのような被りものをしていた」という証言もあるそうです。
Scan10025.JPG
こちらは、バルチャー・コレクションのニワトリ文様のサドルバッグ。
バルーチコレクターにとっては、外せないデザインです。
でも良いものは大変な高値で、私は一枚も持っていません。

2010_1202_101202-CIMG1378.JPG

これは私の絨毯ですが、やはりニワトリの頭部のような文様です。
これもバルーチ独自のデザインだと思います。

* * *

私はこの本を読むまで、バルーチが「コピーイスト」と呼ばれていることを知りませんでした。
まあトルクメンはかたくなに自分たちのスタイルを持っているので別格ですが、
さまざまな地域やグループの絨毯は、近隣からの影響を受けてデザインを発展させてきました。

カシュガイ族も他の絨毯をまねる才能にすぐれていますし、
クルド族やアフシャール族もコピーデザインの絨毯を織っています。
なので、どうしてバルーチだけが「コピーイスト」と呼ばれていたのか解りません。

いずれにしてもバルーチの手にかかると、換骨奪胎されて元のものとはずいぶん印象が変わります。
きちんと消化して、自分たちのものにするのであれば、
それはひとつのデザインの発展ではないかな、と思います。

コメント
個々までのリサーチ、お疲れさまです!敬服いたします。
私も「バルーチ=コピーイスト」ってお初。でもコピー=エセ、とう単純かつ現代的な概念ではなく、彼らが閉鎖的ではなく、地形やインフラにも恵まれて、周辺の部族との交易がさかんで好奇心や先取性にも富む、文化としての「豊かさ」と解釈してもいいのではないかと思います。
ファーストキリムはバルーチだったので、なんと言われようと、大好きです!
  • April
  • 2013.12.17 Tuesday 22:05
Aprilさま、励ましのコメントをありがとうございます。
コピーを「文化としての豊かさ」として捉える視点、いいですね〜。バルーチのコピーは彼ら独特のフィルターとセンスを通り抜けることによって発展していったのだと思います。だから「エセ」と言われるものが持つ「いやらしさ」が感じられない。
日本の文化も、大陸から入ってきたものを取り入れて、新しい風を吹き込み発展させていったものがとても多いですよね。
中央から西アジアにかけての毛織物がこれほど豊かなのは、様々な地域・グループがお互いに影響しあって発展を遂げた結果なのだと思います。
  • ぷぎー
  • 2013.12.18 Wednesday 07:38
私たちに、ラグの面白さを教えてくれた方は、マシャド出身ですが、若い時は、ラグを探しに色々歩いたそうです。
バルーチ族は攻撃的で、バルーチのいる山地に入るのは怖いといっていました。
イランの歴史は知りませんが、交易だけ出なく、かなり侵略〔略奪〕などしたのでは。
先取性に富むと同時にこのような民族の特質が、WAR ラグなどを生んだのではないでしょうか。
  • K Ikeuchi
  • 2013.12.19 Thursday 15:51
トライバルラグの本でも直接的には書いてありませんが「トルクメンはあまりバルーチを怖がらなかった」などの記述もあり、バルーチの一部がしばしば略奪を行っていたのは事実のようです。
ハムセ連合もペルシャ政府の有力一族の交易物を略奪するカシュガイ族に対抗させるために作られたと聞きます。 
遊牧民は多かれ少なかれ「まつろわぬ民」という側面がありますが、その一族の彼女らがあれほど美しい絨毯を織ったということが、さらに想像力をかきたてます。
war rugについては、その背景を知りませんが、新しい情報がありましたらまた教えてくださいね。
  • ぷぎー
  • 2013.12.19 Thursday 18:29
私見ですが、War rugは、ソ連侵攻時代に商業目的で織ったものではないでしょうか。肖像画?のピクトもそのころのモノではないかと想像しています。
  • April
  • 2013.12.20 Friday 12:45
war rugは1979年のソ連のアフガン侵攻後まもなく現われ、2001年のアメリカの侵攻を経てすでに30年ほど織られつづけているようです。商業目的のケースもあるでしょうが、具体的な製作〜流通経路や織り手の意図などはほとんど解っていないようです。
カナダのテキスタイルミュージアムがwar rugの企画展示をしたことがあるようですが「安全圏からそれを見ることの居心地の悪さ」なしに安易に語ることには個人的に抵抗があります。
以前ジャーナリストの西谷文和さんが作詞した「戦争しか知らない子どもたち」という歌を聞きましたが堪りませんでした。一日も早く戦乱が終わってほしい。絨毯に織りこむのは武器ではなく、かつてのように花や星であってほしいと思います。
バルーチのピクトリアル・ラグは意外と古くからあるようです。
  • ぷぎー
  • 2013.12.20 Friday 16:36
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