2014.09.25 Thursday
レイハンル・キリムの謎 その2
前回とりあげた「Hull 本」の「レイハンル特有のデザイン」の説明について。
便宜的に「デザインAタイプ」と「デザインBタイプ」と呼ぶとすると(前回の記事を参照)、
「Aタイプ」はこの本に写真が載っている。
おそらくこれが正真正銘のレイハンル・キリムのデザインだと思う。
残念ながらモノクロだが、写真を拡大するとこのようなトーテミックなモティーフが使われている。
これは私のコレクションの小さなレイハンル。
非常に細かい織りで、深く透明感のある染色と、艶のある細く撚られた糸が使われている。
実用品としてハードに使うにしては繊細すぎるので、「売るために織られたのではないか」という意見もわかるが、
このトーテミックなデザインがあまりにも土着的すぎて、「商品」ぽくないような気もするのだ。
これは2011年ストックホルムでの国際じゅうたん会議(ICOC)でお土産にもらった本から。
Wilhelmina von Hallwyl 女史(19世紀末の人)のコレクション。
大きさは、なんと約461cm×93.5cm!
下部をみると、六角形のトーテミック・モチーフは途中でちょん切れ、
4重ボーダーのうち1つのボーダーだけがなんとか踏みとどまっている。
残る3重のボーダーは、使用によって欠損したという可能性が否定できないとはいえ、
経糸の長さが足りなくなり、織り手が「これで終わりにしちゃえ!」としたようにも思える。
もしこれが「商品」として織られたならばそんな乱暴な処理はありえないが、トライバル・ラグにはよくあることだ。
しかしこのキリムには、通常の「遊牧民キリム」にはありえない14色という豊富な色が贅沢に使われている。
深く透明感のあるすばらしい染色が、写真からも想像できる。
* * *
またこのトーテミックなモチーフは、以前取りあげた「アドゥヤマン」のプレイヤーキリムのモチーフによく似ている。
これはトルコ文化省発行の "Anatolian Kilims" より。
このワイルドな形状からも、遊牧民が自分たちのために織ったキリムと思われるが、
このトーテミックなモチーフが、ある種のトライバル・グループに共通して使われたという可能性はないのだろうか?
さて、これは「Hull本」に載っている「デザインAタイプ」のもう一つの写真である。
トーテミックなモチーフもかなり大人しく上品になり、これなら「商品」と言われても違和感がない。
* * *
つぎに「デザインBタイプ」と思われる写真は「Hull 本」には載っていないので、
「このことかな?」と思われる写真を「コレクターズクラブ本」から引っぱってきた。
レイハンル・キリムの「コンパートメント・タイプ」デザインというのは、たぶんコレ?
赤で囲ったモチーフが入っていると「レイハンル」とされることが多いみたいだ。
三つのうち下の「波型」デザインは「ランニング・ドック」と呼ばれる有名なモチーフで
他の地域や部族の絨毯にもよく使われるけれど、
「S字」を「ランニングドック」で挟み込むのはレイハンル・キリムに多いようだ。
ちなみにこのキリムもかなり大らかな印象で、あまり「商品」らしくない。(^_^;)
これは数十年前にシバスで織られたというキリム。
デザイン的には上のレイハンルとよく似ているが、カラーパレットが違う。
これは「コレクターズクラブ本」掲載のシルクのキリム。19世紀後半だからアンティーク。
この本では、「デザインがアレッポのものと似ている」とされている。
(「レイハンル・キリム」と「アレッポ」や「ガジアンテップ」のキリムは使われる色も似ていて区別が難しく、
欧米ではあえて産地を明言せずに「トルコ東南部」と表現することも多い。この件はまた後日……)
このキリムの産地については書かれていないが、カイセリでもこのデザインタイプのキリムが織られているという。
* * *
このように、とてもよく似たデザインが別の産地でも織られていたことから、
キリムの産地を推定する場合、デザインのみに頼るのではなく、
カラーパレット・使われているウール(糸)やコットンの有無・織りの細かさなど総合的に判断する必要があると思う。
* * *
次回につづく……
深く透明感のあるすばらしい染色が、写真からも想像できる。
* * *
またこのトーテミックなモチーフは、以前取りあげた「アドゥヤマン」のプレイヤーキリムのモチーフによく似ている。
これはトルコ文化省発行の "Anatolian Kilims" より。
このワイルドな形状からも、遊牧民が自分たちのために織ったキリムと思われるが、
このトーテミックなモチーフが、ある種のトライバル・グループに共通して使われたという可能性はないのだろうか?
さて、これは「Hull本」に載っている「デザインAタイプ」のもう一つの写真である。
トーテミックなモチーフもかなり大人しく上品になり、これなら「商品」と言われても違和感がない。
* * *
つぎに「デザインBタイプ」と思われる写真は「Hull 本」には載っていないので、
「このことかな?」と思われる写真を「コレクターズクラブ本」から引っぱってきた。
レイハンル・キリムの「コンパートメント・タイプ」デザインというのは、たぶんコレ?
赤で囲ったモチーフが入っていると「レイハンル」とされることが多いみたいだ。
三つのうち下の「波型」デザインは「ランニング・ドック」と呼ばれる有名なモチーフで
他の地域や部族の絨毯にもよく使われるけれど、
「S字」を「ランニングドック」で挟み込むのはレイハンル・キリムに多いようだ。
ちなみにこのキリムもかなり大らかな印象で、あまり「商品」らしくない。(^_^;)
これは数十年前にシバスで織られたというキリム。
デザイン的には上のレイハンルとよく似ているが、カラーパレットが違う。
これは「コレクターズクラブ本」掲載のシルクのキリム。19世紀後半だからアンティーク。
この本では、「デザインがアレッポのものと似ている」とされている。
(「レイハンル・キリム」と「アレッポ」や「ガジアンテップ」のキリムは使われる色も似ていて区別が難しく、
欧米ではあえて産地を明言せずに「トルコ東南部」と表現することも多い。この件はまた後日……)
このキリムの産地については書かれていないが、カイセリでもこのデザインタイプのキリムが織られているという。
* * *
このように、とてもよく似たデザインが別の産地でも織られていたことから、
キリムの産地を推定する場合、デザインのみに頼るのではなく、
カラーパレット・使われているウール(糸)やコットンの有無・織りの細かさなど総合的に判断する必要があると思う。
* * *
次回につづく……
2014.09.24 Wednesday
レイハンル・キリムの謎 その1
今年は秋の訪れが早いようですが、みなさんいかがお過ごしですか?
うちの近所の公園を散歩するのが私の楽しみの一つになりましたが(昔は「カンケーない!」って感じでした)
いまは貯水池の土手(?)に彼岸花が咲き誇っています♪
さて、書こう書こうと思いつつも、結論なんて出ないことがわかっているテーマ、
「レイハンル・キリム」とは何か?
について、現在ある資料を少しでも整理してみたいと思います。
* * *
まず、日本でもっとも知られているであろうムック『キリムのある素敵な暮らし』(主婦の友社2002年)の記述。
レイハンリ
レイハンリの古いキリムは、繊細な織りとデザインの完成度から、世界中で高く評価されています。
レイハンリがすぐれた産地となった理由は、19世紀中頃に西コーカサスから移住してきた人たちが、
当初からキリムを商品にする目的で織りはじめたからといわれています。
多くのキリムが自家用であったことに比べると、大きな違いがあります。
しかし20世紀に入ると、かつてのような高品質のキリムは作られなくなってしまいました。
* * *
では、この記述はなにを根拠にしているのか? というと、執筆者ではないので何とも言えませんが、
もしかしたら、"KILIM The Complete Guide" by Alastair Hull & Jose Luczuc-Wyhowska かもしれません。
英語に自信がないので、間違った箇所があるかもしれませんが、だいたい次のようなことが書かれています。
(以下、この本を 「Hull 本」と略します)
古いレイハンルキリムは、アナトリアで最も織りが細かく、デザインが緻密で優れている。
このことは主に、19世紀中頃に西コーカサスから移住した人びとの影響によるものではないかと考えられている。
これらのキリムのずば抜けた品質は、
他のアナトリアキリムが自家使用のために織られたのとは著しく異なり、
おそらく売るために織られたのではないかと思わせる。
この地域では、20世紀初頭には織物が織られなくなり、
レイハンルの村自体も、一般的なトルコ式もてなしを別にすれば、訪問者に提供できるものは無くなってしまった。
デザインは、しばしば中央に、細長い六角形またはダイアモンド型のメダリオンを配し、
(その周りを)複雑なボーダーが取り囲んでいることが多い。
これ以外には、小さな型のフィールド・モティーフを単独で使ったり、複数で使ったりする
プレイヤー・アーチをもつパターンがある。(注:デザインAタイプ)
「"本物の"レイハンルは、かならず外側ボーダーに茎と葉のデザインが使われている」と言われている。
レイハンルとされるすべてのキリムに、このモチーフが配されているわけではないが、
(幾重かに配された)ボーダーのうち、少なくとも一つに使われていることが多い。
この地域での他のデザインとしては、
正方形や長方形のパネルを重ねたコンパートメント型を、複雑なボーダーで囲ったものがある。(注:デザインBタイプ)
このタイプは、今日、カイセリ周辺の村で織られているキリムに似ているが、
(レイハンルの)オリジナルは、ずっと織りが細かく、細部まで神経が行き届いている。
配色はコントラストが強く、深いワイン色、テラコッタ色、紺色と水色、緑、黒、そしてコットンの白が使われる。
染めていない白のコットンは、レイハンルキリムによく見られる。
これらのキリムのずば抜けた品質は、
他のアナトリアキリムが自家使用のために織られたのとは著しく異なり、
おそらく売るために織られたのではないかと思わせる。
この地域では、20世紀初頭には織物が織られなくなり、
レイハンルの村自体も、一般的なトルコ式もてなしを別にすれば、訪問者に提供できるものは無くなってしまった。
デザインは、しばしば中央に、細長い六角形またはダイアモンド型のメダリオンを配し、
(その周りを)複雑なボーダーが取り囲んでいることが多い。
これ以外には、小さな型のフィールド・モティーフを単独で使ったり、複数で使ったりする
プレイヤー・アーチをもつパターンがある。(注:デザインAタイプ)
「"本物の"レイハンルは、かならず外側ボーダーに茎と葉のデザインが使われている」と言われている。
レイハンルとされるすべてのキリムに、このモチーフが配されているわけではないが、
(幾重かに配された)ボーダーのうち、少なくとも一つに使われていることが多い。
この地域での他のデザインとしては、
正方形や長方形のパネルを重ねたコンパートメント型を、複雑なボーダーで囲ったものがある。(注:デザインBタイプ)
このタイプは、今日、カイセリ周辺の村で織られているキリムに似ているが、
(レイハンルの)オリジナルは、ずっと織りが細かく、細部まで神経が行き届いている。
配色はコントラストが強く、深いワイン色、テラコッタ色、紺色と水色、緑、黒、そしてコットンの白が使われる。
染めていない白のコットンは、レイハンルキリムによく見られる。
一般的に、織りは非常に細かく、ウールはきっちりと紡がれ、艶のあるシルキーな質感である。
大きさとしては、
二枚はぎの大きな長方形と、プレイヤー・サイズの小さなものがあり、
そして稀に、中くらいの長方形のものが見つかるが、これも二枚はぎになっている。
この記述の最初の部分が、『キリムのある素敵な暮らし』とほぼ同じ内容になっています。
* * *
それ以外に私の持っているレイハンルの文献資料といえば、
Antique Collectors' Club "ORIENTAL RUGS Vol.4 TURKISH" くらいなのですが、
こちらは大したことが書いていません。
オロント川沿いのAnkara(ママ。たぶんAntakyaの誤植)からそう遠くない南東の小さな町。
キリムとジジムのマーケット・センターとして知られている。
織りの細かい19世紀のレイハンル・キリムは有名で、熱心な蒐集の対象とされている。
(以下、この本を「コレクターズクラブ本」と略します)
大きさとしては、
二枚はぎの大きな長方形と、プレイヤー・サイズの小さなものがあり、
そして稀に、中くらいの長方形のものが見つかるが、これも二枚はぎになっている。
この記述の最初の部分が、『キリムのある素敵な暮らし』とほぼ同じ内容になっています。
* * *
それ以外に私の持っているレイハンルの文献資料といえば、
Antique Collectors' Club "ORIENTAL RUGS Vol.4 TURKISH" くらいなのですが、
こちらは大したことが書いていません。
オロント川沿いのAnkara(ママ。たぶんAntakyaの誤植)からそう遠くない南東の小さな町。
キリムとジジムのマーケット・センターとして知られている。
織りの細かい19世紀のレイハンル・キリムは有名で、熱心な蒐集の対象とされている。
(以下、この本を「コレクターズクラブ本」と略します)
うーん、あんまり参考にならないなあ。
レイハンルを「産地」として説明している本は、これくらいしか持っていないのですが、
次回は「部族としてのレイハンル」を匂わせる記述のある本を紹介します。
内容が切れ切れになっちゃいますが、ご容赦を!
このテーマは「その2」に続きます〜。
レイハンルを「産地」として説明している本は、これくらいしか持っていないのですが、
次回は「部族としてのレイハンル」を匂わせる記述のある本を紹介します。
内容が切れ切れになっちゃいますが、ご容赦を!
このテーマは「その2」に続きます〜。
2014.09.06 Saturday
レイハンルキリム 比較 その2
前回は「中央部分が無地のキリム」と「装飾性の強いキリム」を比較しましたが、
今回は「装飾性の強いキリム」どうしを並べてみました。
左側が前回の「片割れキリム」、右側が二枚揃った「チフ・カナット」です。
大きさはそれぞれ約79×320cmと約165×335cmで、チフカナットのほうがやや大ぶりです。
……が、それにしてもソックリ!
ボーダーの文様も同じタイプですが、フィールド部分の配色の順番までほぼ同じ!
オフホワイト部分はいずれも「ウールとコットンを撚り合わせた糸」ですが、右側がより白っぽく、ニュアンスが違います。
けれどフィールド部分のコチニールやインディゴは、おなじ染液で染めたといってもいいくらい似た色です。
この緑もそう。
そして織り込まれているモチーフも、じつに似通っています。
前回比較したキリムは、おなじレイハンルでも受ける印象はかなり違いました。
「インディゴの海」のキリムは「遊牧生活のなかで織られ、使われた」ように思えるのに対し、
「装飾性の強い」タイプは、いわゆる「工芸品」的な印象が強いのです。
そして今回並べたキリムは、配色といいデザインといいあまりに様式化されていて、
「レイハンルキリムは商用目的に織られた」なる説は、このタイプのことを言っているのだろうか? と思えるのです。
キリムはもともと、織り手が属する部族やグループに先祖代々受け継がれてきた意匠や色で織られてきました。
でも織り手の気分や想像力などによって、織り手の個性が加わるために、
同じグループの織るキリムでも、一枚一枚、どこか違って当たり前です。
けれど今回の二枚のキリムは、どうもそれとは違う。
見本となるパターンがあって、織り手はそのパターンとほぼ同じものを織るように指示されて織った感じがするのです。
配色といい、デザインといい、とてもキレイ。
でも、どこか、よそよそしい。
「これを織った人はどんな人かな?」と想像する「ふくらみ」のようなものがなく、
「きちんと指示どうりに織りました」っていうところが「商品」っぽい感じがするのです。
ところで私が「レイハンルは商用目的に織られた」説に違和感を感じる一つの理由は、
大きなキリムでも一枚ものはなく、せいぜい幅1mを二枚はぎ合わせたチフ・カナットしかない、ということでした。
いわゆるシャルキョイ・キリムには、幅4mを超えるような超大型の一枚ものがみられます。
これは専門の工房でなければありえないサイズ。
でもレイハンルキリムが「商用目的に織られた」のが事実であれば、
なぜその時点で大型の織り機が生まれなかったのでしょうか?
その答えは見つかっていないのですが、「商用目的云々」がささやかれるのも、
深みと透明感のある高い染色技術や、細く撚られた上質の糸を特徴とするからだと思います。
たしかに織りが細かく、薄いです。
密な織りなので、薄い割にはパリッとした質感。
この強い紫は、「片割れキリム」だけでなく「二枚はぎ」の方にも使われていました。
あとレイハンルに特徴的なのが「黄土色」ですね。複雑な「黄〜茶」系の色がよく見られます。
色があんまり似ているので、二枚のキリムを重ねてみました。
左が「二枚はぎ」、右に重ねてあるのが「片割れキリム」です。
言われなければ、「織るときに左右の大きさがちょっとずれちゃった二枚はぎ」と思えるくらい。
緑の部分も、「左がちょっと青っぽいかな?」程度の違いです。
モチーフもまるで同じ人が織ったように似ています。
大きさは二枚はぎのほうがひとまわり大きい。
片割れキリムを持ち上げると……クリソツ!!
たたむとこんな感じです。
横から撮ると薄さがわかります。
反対側から撮ると……
いわゆる「レイハンル」と呼ばれるキリムにも、いろいろタイプがあるようです。
わたしはそれほどの枚数を見たこともないし、ビジネスに関わっているわけでもないので、確かなことはわかりません。
はたして「商用目的に織られた」説がどこまで真実なのかはわかりませんが、
今回のデザイン・タイプは、
やはり専門の染色職人の手が加わり、当時盛んに織られた代表的パターンであった可能性を示唆していると思います。
今回は「装飾性の強いキリム」どうしを並べてみました。
左側が前回の「片割れキリム」、右側が二枚揃った「チフ・カナット」です。
大きさはそれぞれ約79×320cmと約165×335cmで、チフカナットのほうがやや大ぶりです。
……が、それにしてもソックリ!
ボーダーの文様も同じタイプですが、フィールド部分の配色の順番までほぼ同じ!
オフホワイト部分はいずれも「ウールとコットンを撚り合わせた糸」ですが、右側がより白っぽく、ニュアンスが違います。
けれどフィールド部分のコチニールやインディゴは、おなじ染液で染めたといってもいいくらい似た色です。
この緑もそう。
そして織り込まれているモチーフも、じつに似通っています。
前回比較したキリムは、おなじレイハンルでも受ける印象はかなり違いました。
「インディゴの海」のキリムは「遊牧生活のなかで織られ、使われた」ように思えるのに対し、
「装飾性の強い」タイプは、いわゆる「工芸品」的な印象が強いのです。
そして今回並べたキリムは、配色といいデザインといいあまりに様式化されていて、
「レイハンルキリムは商用目的に織られた」なる説は、このタイプのことを言っているのだろうか? と思えるのです。
キリムはもともと、織り手が属する部族やグループに先祖代々受け継がれてきた意匠や色で織られてきました。
でも織り手の気分や想像力などによって、織り手の個性が加わるために、
同じグループの織るキリムでも、一枚一枚、どこか違って当たり前です。
けれど今回の二枚のキリムは、どうもそれとは違う。
見本となるパターンがあって、織り手はそのパターンとほぼ同じものを織るように指示されて織った感じがするのです。
配色といい、デザインといい、とてもキレイ。
でも、どこか、よそよそしい。
「これを織った人はどんな人かな?」と想像する「ふくらみ」のようなものがなく、
「きちんと指示どうりに織りました」っていうところが「商品」っぽい感じがするのです。
ところで私が「レイハンルは商用目的に織られた」説に違和感を感じる一つの理由は、
大きなキリムでも一枚ものはなく、せいぜい幅1mを二枚はぎ合わせたチフ・カナットしかない、ということでした。
いわゆるシャルキョイ・キリムには、幅4mを超えるような超大型の一枚ものがみられます。
これは専門の工房でなければありえないサイズ。
でもレイハンルキリムが「商用目的に織られた」のが事実であれば、
なぜその時点で大型の織り機が生まれなかったのでしょうか?
その答えは見つかっていないのですが、「商用目的云々」がささやかれるのも、
深みと透明感のある高い染色技術や、細く撚られた上質の糸を特徴とするからだと思います。
たしかに織りが細かく、薄いです。
密な織りなので、薄い割にはパリッとした質感。
この強い紫は、「片割れキリム」だけでなく「二枚はぎ」の方にも使われていました。
あとレイハンルに特徴的なのが「黄土色」ですね。複雑な「黄〜茶」系の色がよく見られます。
色があんまり似ているので、二枚のキリムを重ねてみました。
左が「二枚はぎ」、右に重ねてあるのが「片割れキリム」です。
言われなければ、「織るときに左右の大きさがちょっとずれちゃった二枚はぎ」と思えるくらい。
緑の部分も、「左がちょっと青っぽいかな?」程度の違いです。
モチーフもまるで同じ人が織ったように似ています。
大きさは二枚はぎのほうがひとまわり大きい。
片割れキリムを持ち上げると……クリソツ!!
たたむとこんな感じです。
横から撮ると薄さがわかります。
反対側から撮ると……
いわゆる「レイハンル」と呼ばれるキリムにも、いろいろタイプがあるようです。
わたしはそれほどの枚数を見たこともないし、ビジネスに関わっているわけでもないので、確かなことはわかりません。
はたして「商用目的に織られた」説がどこまで真実なのかはわかりませんが、
今回のデザイン・タイプは、
やはり専門の染色職人の手が加わり、当時盛んに織られた代表的パターンであった可能性を示唆していると思います。