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2015.05.27 Wednesday

絨毯のオリジンは? 「バールリ」ソフレ


前回取り上げたピースで、「バールリ」が織ったとされるピースがありました。

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室内で撮った写真

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よく晴れた日に室外で撮った写真

* * *

今回は「絨毯の特定」、つまりどの部族が織ったものかを考えたいと思います。
わたしはこのピースをMichael Craycraftさんから「バールリ」というバルーチ系部族の「ソフレ(食卓布)」として購入しました。

おじさんはトライバルラグ最盛期にカリスマ的ディーラーとして、おびただしい数のピースを扱っているし、
絨毯や部族の研究にかける熱意、特にバルーチに関しては大変なものでした。

これを「バールリ」のものだとした大きな理由は、
ハルーチ・タイプに典型的な「インディゴと茜と白」というカラースキームに加えて、
対称結びで織られている」ことだと思われます。

バルーチ・タイプの絨毯はほとんどが「非対称結び」だけど、
バールリ・グループは「対称結び」で織られているのです。

* * *

けれど、このピースはあまりにレアで、
これに近いものは、実物はもちろん見たことがないし、手持ちの絨毯本にも載っていません。

正直なところこれが絶対に「バールリのソフレ」なのかどうか、個人的には自信がないのでアリマス。
おじさんは「バールリ」だと言ったけれども、
自分自身がいろいろ考えて、調べて、納得したい。
きっとおじさんもそのような探究心(?)を喜んでくれるのではないか、
などと、勝手に考えてマス。

* * *

デザイン

まず、デザインがなんとなくアフシャールっぽい。

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"Kilim the Complete Guide"  に載っているアフシャールのキリム。
大きめのボーダーに囲まれた内側が箪笥状に分けられた構図が、なんとなく似ていませんか。

白っぽい菱形に囲まれた2個の「S字」文様も、私のピースの下から2番目の段のものと類似しています。

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この8つの花びらのお花モチーフも、バルーチタイプではあまり見たことがないのですが、

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マクドナルド版の"Tribal Rugs"には、
塩袋のなかに、似たような花のモチーフが使われています。

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お花部分を拡大すると、似たような「8つの花びら」。

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この文様もどこかでアフシャールのキリムで見たような気がしますし、
織りの技法から言っても、アフシャールも基本的に「対称結び」で絨毯を織るんです。

* * *

というわけで、これはアフシャールのピースの可能性もなきにしもあらず? と思うのですが、
デザインだけで、絨毯のオリジンを結論づけるのも問題。

というのも、絨毯が商業目的で大量に織られるようになって以降、
人気のあるデザインは、違うグループがどんどんコピーしていったからです。

トルクメン絨毯のデザインをコピーしたパキスタン絨毯は有名だと思いますが、
「ブハラ絨毯」を織っているのがトルクメン族でない場合も多いのです。
またコーカサス絨毯のデザインをコピーしたものも、ペルシャやトルコ、アフガニスタンなどで織られました。
わかりやすいところでは、もともと南西ペルシア遊牧民の絨毯であったギャッベ、いまはインドなどでも織られていますよね。

絨毯で一番最初に目に飛び込んでくるのはデザインと色なので、
どうしてもデザインからその絨毯のオリジンを判断してしまいがちですが、
織りの構造や使われているウールの質、タテ糸やヨコ糸から読み取れることなど、
総合的に判断する必要があると思います。

このソフレは、どうも商業目的で織られたものではなさそうですが、
19世紀末あたりには、違う部族のデザインをコピーすることは、それほど珍しくなかったようです。

* * *

仮にこれがアフシャールのものだとしても、ギモンが。

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これ、タテ糸が茶色のウールなんです。
バルーチ・タイプの絨毯も、アフシャールの絨毯も、タテ糸はオフホワイトが基本。

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あとはやっぱりカラー・スキームが、アフシャールよりはバルーチっぽい。
この濃淡のインディゴの見事な染めは、バルーチの得意とする点!

ウールの質

このピースはウールの質もしなやかで艶があり、古いバルーチによく見られる上質なものです。
私はアフシャールのバッグを一枚だけ持っているのですが、それは硬めでラノリン(自然の油)があまり多くないウールの。

ウールの質は一般に寒い地域のものほどラノリンが多く艶があると言われていますが、
ただ、アフシャールの居住区域は多岐にわたっているので、良質のウールが使われている地域もあるでしょう。

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この地図ではイラン北東部にもアフシャールが住んでいるようです。
ホラサン地方は良質のウールの産地として有名で、バルーチも住んでいます。

現時点での私の推定

このピースはホラサン地方周辺のもので、
・アフシャール・デザインの影響を受けたバールリが織った
もしくは
・バルーチが好んで使うカラースキームを使ってアフシャールが織った
という可能性があると思います。
もちろん、それ以外の部族の可能性も。

* * *

このピースは、ヨコ糸の一部に青糸が使われているなどの特徴があります。

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パイルが抜けているので、青いヨコ糸がはっきりと見えます。

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でも青いヨコ糸は一部分で、それ以外は茶色の原毛が使われています。

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‥‥イロイロ言ったけど、結局何がわかったのか、迷走しただけだったのかも。
ま、オタクのたわごとと許してくださいアセアセ
 
2015.05.17 Sunday

Michael Craycraft was a great guy.


5月10日にわたしの敬愛するラグ・ディーラー、Michael Craycraft さんが亡くなった。

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東日本大震災から間もない2011年6月、ストックホルムで開かれた国際絨毯会議で一度お会いしたきりだから、
おじさんのことはほとんど知らないといってもいい。

それなのに、訃報を聞いてから、心にぽっかりと穴が開いたようになっている。
それだけあのときの印象がつよく胸に残っているのだろう。

絨毯会議のディーラーズ・フェアで、"BELOUCH PRAYER RUGS"という本を書いた人とは知らずに店に入り、
「枯れていて、ものしずかに話すし、それでいて、なにか強いものを持っているカンジ」に軽い衝撃を受けて
いっぺんにファンになった。
その記事を読みかえしてみたが、あれから四年経つんだなあ。

訃報を聞いたあと、おじさんから譲ってもらった絨毯、といってもほとんどフラグメントだが、
部屋にひろげて、ぼんやりと眺めていた。

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このヨムートのトルバは、何度もブログで取り上げている。

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ベルガマのチュバル(収納袋)

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コンヤのヤストゥック(クッション)

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クルドのキリム(セネ周辺だと思う)

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バルーチ・タイプの物を織る「バールリ」という部族のソフレ(食卓布)。

古い絨毯に興味のない方からは「よくこんなにボロばっかり、、、」と思われても仕方がないが、
これだけのフラグメントをそろえるディーラーを、わたしは他に知らなかった。

HALI MAGAZINE によると、
70年代から90年代はじめにかけてのトライバルラグブームがもっとも熱かった時代、
The Adraskand Inc. rug store のオーナーとして、サンフランシスコのベイエリアのラグシーンを牽引し、
その後はドイツに移住して、Garelie Arabesque を運営した。
バルーチとトルクメンのスペシャリストとして、そのユニークな人柄とともに、
カリスマ的なラグディーラーとして人びとから愛されたという。

公私にわたるパートナーDr Ulrike Montigel さんによると、おじさんは
毎年アメリカで開催されている Antique Rug & Textile Show (ARTS)の立ち上げに当たっても、献身的な働きをされたようである。

そのARTS、最近の写真におじさんが写っていないので、どうされたかなと思っていた。
でも、きっと元気で、あの人懐こい笑顔でいてくれているはず。そう信じていた。

そこに突然の訃報。
おじさんは過酷な病気だった。

わたしも去年、病気になって、
ああ、人間って、いつか死ぬんだな、って思った。
あたりまえのことだけど、それがストンと腑に落ちたっていうか。

おじさんは、頑固なところもあったみたいで、またそこが魅力の一つでもあったんだろうけど、
病気になってから、より人間が柔らかくなり、鳥やバルコニーの植物や街の眺めなどを楽しまれたようだ。
絨毯への愛情は亡くなるまでつづき、パートナーがあたらしく手に入れた品々を愛でられたという。
闘病は過酷だったけど、苦しさは自分のなかにとどめて、心のゆとりを失わなかった。

わたしはおじさんの若いときを知らないけど、
トライバル・ラグに出会って、おじさんの人生は決まったんだよね。
それまで評価の低かったバルーチ絨毯に、こんなに素晴らしいものがあるんだって、
アフガニスタンやイランから、どんどん宝物が発掘されてくる。
もう、毎日が驚きで、新鮮で、うれしくて。
それを他の人にも、「どうだい、こんな美しい絨毯を見たことがあるかい」って、知らせたくて。
それでそのまま絨毯屋になっちゃった。

   *   *   *

人生は一度っきり。
つらいことも多い。
でも、そのなかで、自分にぴったりの、大好きなものに出会えたら、人生は素敵だ。

   *   *   *

敬愛するMichael Craycraftおじさんに、グルダのアリアを捧げます。



どうぞ安らかにお眠りください。
 
2015.05.08 Friday

天然染料は褪色しにくいか? 一枚のコーカサス・ラグ



前回、湿気を飛ばすために絨毯を陽に当てる記事を書いたけれど、

化学染料が使われている場合は注意が必要です。



織られて100年以下の「オールド」絨毯やキリムには化学染料が使われているものが多いのですが、

特に初期のアニリン染料は、水流れ&褪色が激しいという欠点を持っていました。

改良されたクロム系化学染料は、それらの欠点がずいぶん改良はされたものの、

赤系統の色には、やはり褪色しやすいものが多いようなので、

褪色を避けるためには、表裏それぞれ15分程度にとどめたほうが良いかもしれません。

(100年以上のアンティークでさえ、化学染料が使われたものもけっこうありますので、気をつけて下さい)



* * *



さて、「天然染料は褪色しにくいか?」という問い、

「たいていの場合はイエス」と私は考えていますが、例外もあるようです。



化学染料は陽に当たると、比較的短期のうちに褪色するものが多いのにたいして、

天然染料で染められた絨毯やキリムは褪色するスピードが非常に遅く、100年以上たっても色鮮やかなものが多いです。

「褪色」という言葉よりは、むしろ「熟成による色の変化」とでも表現した方がふさわしい、美しい色になるのです。



ただし天然染料のなかには褪色しやすいものもあります。

天然染料について考察したハロルド・ボーマー氏の『キョクボヤ』という本には、

さまざまな天然染料を使った染色実験をおこなった結果、

褪色しやすい天然染料もある、ということが述べられています。

日本人には馴染みの深いベニバナも褪色しやすい染料だと書かれているのには少し驚きました。



そこで今回は、「褪色しやすい天然染料」が使われた絨毯をご紹介しましょう。



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コーカサス絨毯。さらに具体的な地域については不明アセアセ

大きさ:約142✖️106cm

織られた年代:推定19世紀末〜20世紀初め



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タテ糸:ウール3本撚り(色はこげ茶・薄茶・アイボリーなどさまざま)



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セルベッジ:コットン



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ヨコ糸:コットンの部分が多いが、真ん中あたりはこげ茶のウールも使われている。

写真はコットンが使われた部分。本数は2本(1往復)。



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ヨコ糸に茶色のウールが使われている部分。



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カラーパレット:

アイボリー、茶、こげ茶(たぶん羊の原毛)

緑(インディゴと黄色の二度染め)

青、紺、ブルーグリーン(インディゴ由来)

山吹色、枇杷色、ローズ色



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個人的な見立てではすべて天然染料だと思いますが、

山吹色と枇杷色の部分が特に褪色して、ぼんやりした黄土色のように見えます。

一方、わずかに使われたローズ色の部分は、よく残っています。



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表部分は褪色した色があるため、ちょっとぼんやりした印象ですが、

コンポジションはすばらしい!



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「村の絨毯」の美質である伸びやかさ・自由さ。



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内側ボーダー部分のお花たちの可愛いこと!

中間のボーダーは力強い幾何学模様が緊張感をたもち、

外側ボーダーの四角モチーフが心地よいリズムを奏でています。



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絨毯の裏側は天然染料がよく残っていて、

黄金色や優しい桃色など、キレイな色がいっぱい!



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裏側。

織られた当時は、表側も鮮やかだったんでしょうね〜



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夢のあるモチーフがいっぱい‥‥



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インディゴでも青、紺、ブルーグリーンの三つの色が。



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デプレスなしのフラットな織りで、

ノット数は、10cm四方で縦30目横32目くらいです。



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大部分のヨコ糸にコットンが使われているので、

手に持った感じはしっかりとしています。(くにゃくにゃしない)



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ヨコ糸に茶色のウールが使われている部分ですが、

特質が違うヨコ糸をとりまぜて織るのって、技術的に難しくなかったのかな?



でもたぶん、これを織った人はとても上手な人だと思います。



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村の絨毯や部族絨毯は基本的に「方眼紙」を使いません。

せいぜい「ワギレ」と呼ばれる織り見本を見るくらい。



考えてもみて! 頭のなかに全体像のイメージを浮かべながら織るんですよ!

コレ、スゴくない??? エリザベスエリザベスエリザベス



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少なくとも私にはどう頑張ってもできません。 kyu



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目も覚めるような黄金色!

裏はこんなにキレイなのに、表が褪色しちゃったのが残念〜



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モチーフの並べ方がこんなにカワイイのは、天性のセンスでしょうか。



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表は褪色しちゃったけれど、それでもなおかつ美しい、村の絨毯です。

2015.05.01 Friday

SUN SUN SUN ! 絨毯のお手入れ


絨毯をコレクションするうえで気をつけなければいけないのは、湿気と害虫です。
なので、年に最低二回は日に当てるようにしています。

きょうは絶好の絨毯干し日和!

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まずはバルーチの大きめのものから‥‥

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去年の冬の暖かい日に干して以来かもしれません。

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物干し竿には、少し小ぶりのバルーチ。

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バルーチにもいろんなタイプのプレイヤーラグがあります。

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キャメルフィールドのこのタイプはバルーチの代表的な祈祷用絨毯。

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最初の絨毯を取り込んで、第二弾。

一番右のはとってもお茶目なボテ文様。
ホラサン地方のバルーチ絨毯に比べて織地が若干厚めな「クルド・バルーチ」と呼ばれるタイプです。

クルド族のなかにバルーチタイプの絨毯を織るグループがいるとのことですが、実態はよくわかりません。
キリムエンドにこのようなジジムを織り込むことは、クルド族の毛織物によく見られますが、
バルーチ族の毛織物にはほとんど見られないので、
やっぱりクルド族が織った可能性が高いでしょう。

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左の二枚はバルーチ・タイプでも「タイムリ」と呼ばれるグループのもので、厳密にはバルーチ族ではありません。
だから「バルーチ・タイプ」の絨毯には、バルーチ、タイムリ、クルドなどイロイロあるということなのです。

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第三弾! 色鮮やかなトルコ絨毯。
左の二枚は東トルコ、真ん中はムジュール、右の二枚はクルシェヒル。

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バルーチもそうだけれど、最近はこういう絨毯がめっきり市場から消えました。
かつての自分のクレイジーさ加減を振り返って、
「たしかに常軌を逸していたかもしれないけれど、こういう絨毯を手にいれる最後の機会だったかも」
という思いはあります。

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物干し竿、第二弾!
上段、左はコンヤ、右はミラス、
下段、左からカシュガイ、バルーチ、バルーチ。

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一番奥の列の左がハムセ、右がバルーチ、真ん中の列は2枚ともバルーチです。

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もうひと頑張りしなくっちゃ!
‥‥まだまだ虫干しはつづきます。

お日さまに感謝! 晴れ
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