2015.10.16 Friday
「トルクメン・ボーダー」と水面下の龍
バルーチ絨毯にも使われる「トルクメン・ボーダー」のつづきです。
(「トルクメン・ボーダー」と言っても、トルクメン絨毯に使われるボーダーには色々あります。
記事で取り上げている「ムカデのような文様」は、あくまでもその一つなので、誤解のないようお願いします)
何度もおなじ写真で恐縮ですが、わたしはこの絨毯が大好きです。
「インテリアに使える」というよりも「骨董として眺める」形になっちゃいますが‥‥
いわゆる「トルクメン・ボーダー」のキリッとした線には、良い意味での緊張感が感じられますし、
下の方の絨毯は、「濃紺から渋茶」という驚くべき色の切り替えが柿色のベースから浮き上がっているように見えて、
バルーチならではの美意識が表現されているように思えるからです。
この絨毯を見ていて思い浮かぶのが、
重森三玲が作庭した「龍吟庵」の西庭(龍門の庭)。
(画像はウィキペディアから拝借しました)
稲妻文様が施された竹垣を過ぎると、龍が海から顔を出し黒雲に乗って昇天する姿が石組みによって表現され、
その大胆な発想とダイナミックな空間には圧倒されます。
天才作庭家をもちだすのはちょっと調子に乗りすぎかもしれませんが、
この「トルクメンボーダー」をじっと眺めていると、
海面スレスレを泳ぐドラゴンのようにも思えてきたりして‥‥
「アレ? 龍の脚って4本じゃなかったっけ?」‥‥てなことは訊かないでね。
* * *
「龍吟庵」に比べるとずいぶん庶民的になりますが、うちの近所にも「龍門の庭」があるのデス。♫
わたしのお散歩コースに、顔を出している龍さんがいるのですが、
石柱の上には「ドラゴンボール」らしき球が載っかっていたりして。
この龍さん、けっこうイケメンでして、いつ見てもホレボレします。
散歩でここを通りすぎるとき、「よっ!イケメンさん、こんにちは!」と挨拶しております。
この彫刻のすごいのは、顔がイケメンだというだけでなく、
敷地全体を眺めると、龍がとぐろを巻いていて、「水面上」に4箇所「ウロコ」が出ているのです。
つまり龍さんの「胴体は、敷地の下に隠れている」ってことなんですね。
頭の周辺の地面には、曲線で「水面下の胴体」を暗示させているってところがニクい!
最初わたしは、この彫刻はこの敷地だけなんだろうと思っていましたが、
約500m離れたところに、ドラゴンボールが載った石柱が2本あり、
「あっ、龍さんはこんなところまでつづいているんだ!」とビックリ。
そこからさらに500m離れたところに‥‥
おなじ彫刻家の作品と見られるオブジェをハッケン!
「でも、これ、なんでちゅか???」
もしかして、龍さんの卵!?
そしてもしや、この卵は孵化しているところで、子龍の脚が殻をつきやぶっている最中???
すげーっ!
龍さんの胴体は約1キロにも及んでいた〜〜
うれしいことに、この子龍は子どもたちの絶好の腰かけ場になっていて、
放課後ここを通りかかると、子どもたちがワラワラと子龍に群がっていたりするのです。
このへんでも団地や街のあちこちにいろんな彫刻がありますが、
そのなかでもこの親子の龍の彫刻は、庶民に愛されつづけているピカイチのアートです。
これをつくられたアーティストのお名前はわかりませんが、
発想は、あの重森三玲さんに負けていないと思うよ、ウン!
2015.10.08 Thursday
絨毯のボーダー・デザイン
前回につづき、
いわゆる「トルクメン・ボーダー(トルクメン・ライン)」とはなんぞや?
を考えていきましょう。
『シルクロードの華』(朝日新聞社1994年)から以下に3枚の画像を引用させていただきます。
まず絨毯各部の名称をおさらい〜!
要は、絨毯中央部分が「フィールド」、その周りを「ボーダー」が囲んでいるわけですが、
今回の話題は、その「ボーダー」部分のデザインについて。
前回記事に引用した
このギザギザの蔦のようなデザインは、しばしば「ボート」パターンと呼ばれるが、
ペルシャやコーカサスやトルコ絨毯でも使われている「パルメット」もしくは「クラウド・バンド」の変形である
という箇所ですが、『シルクロードの華』によると
これがパルメットで、次のような説明があります。
「棕梠や椰子の細長い葉型文様。放射線状にのびる花弁・葉型を伴うハート形頭状花。
葡萄の葉、チョウセンアザミ等に似ているが、多数のヴァリエーションがある。
一例として、最初に16世紀インド・ペルシア絨毯に使われたパターンで、
後にヘラーティ文様に発展した内反り、外反りのパルメットがある」
雲文がつながった「クラウド・バンド」は上の図のようなライン。
「雲文(うんもん)とは、中国起源で種々の形がある。
帯状の雲が三つ葉状に、あるいは雄ヒツジの角のように表されたり、
霊芝(万年茸状の)雲のように表されることがある。
多くはボーダー内にみられる」(前掲書)
さて、前回引用したトルクメン絨毯のボーダー部分を拡大してみましょう。
ヨムートのボーダー
チョドールのボーダー
‥‥これらのボーダーが「パルメットやクラウド・バンドの変形」と言われても、
「変遷を経てこうなった」とも取れるし、「ずいぶん違うじゃん」とも言えるような‥‥
文様が苦手なのは、イマイチ「決め手に欠ける」論が多いからなんですね。
* * *
まあ、そうやって食わず嫌いをつづけていても進歩がないので、
絨毯デザインに詳しい "ORIENTAL CARPET DESIGN" by P.R.J.FORD をみてみました。
この本にはちゃんと「ボーダー・デザイン」の章があり、
著者はボーダーを4つの基本タイプに分けています。
(あくまでもこの筆者の区分方法です)
A ヘラティー・ボーダー
B ロゼット(バラ飾り)を連ねたボーダー
C カルトゥーシュ・ボーダー(上記ミヒラーブ絨毯の図を参照のこと)
D 雷文(方形の渦巻状文様)
この四つを具体的に見ていくと、
A ヘラティー・ボーダー
B ロゼットを連ねたボーダー
C カルトゥーシュ・ボーダー
D 雷文もしくは渦巻状文様のボーダー
というふうに説明されています。
* * *
さて、このボーダー・デザインの分類法に照らし合わせても、
この間みている「トルクメン・ボーダー」がどれに当てはまるのか?
あえて言えば、A か D になるでしょう。
A も D も大雑把な言い方をすると、
「モチーフとモチーフの間を斜め状の線が走っている」タイプです。
「C カルトゥーシュ・ボーダー」だけはモスクや宮廷絨毯などに使われたであろう「特別なデザイン」ですが、
あとの3タイプは、結局「便宜的な区分方法」といっても差し支えないような気がしますが、いかがでしょう。
わたしは、むしろそれより、
さまざまなタイプの文様が、特定のグループの絨毯に取り入れられた後の個性を重んじたい。
今回の「いわゆるトルクメン・ボーダー」は、
おなじトルクメンでも、ヨムート・チョドール・キジルアヤクなど支族によって、それぞれ持ち味が違うし、
そのデザインを取り入れたバルーチの絨毯には、トルクメンにはない個性が加わっています。
そのそれぞれの個性を愛でることが、部族絨毯をあじわう醍醐味のような気がするのです。
‥‥ナーンチャッテ!
2015.10.02 Friday
バルーチ絨毯にも使われる「トルクメン・ボーダー」
前回のバルーチ絨毯に使われている「ムカデのような線」は、"Turkmen line"とも呼ばれています。
主にトルクメン絨毯に見られるボーダーの一種が、バルーチ絨毯にも使われていることから、
便宜的に「このバルーチ絨毯にはトルクメン・ボーダーが使われている」というようです。
Siawosch Azadi 著 "Carpets in the Baluch Tradition" という本にも、このボーダーの絨毯が載っています。
イラン北東部ホラサン地方のもので、推定年代は1840年ごろ。
279✖️179cm の比較的大きな絨毯。
面白いのは、ボーダーに「トルクメン・ライン」が使われているだけでなく、
フィールド中央の縦ラインに7個並んでいる「宇宙人キャラクターのような文様」も
「ケジェベ・ギュル」と呼ばれるトルクメンがよく使うモチーフです。
トルクメンの文様の影響が強いバルーチ絨毯だと言えるでしょう。
これもホラサン地方のものですが、「非対称結び」の技法の「バールリ」部族のものということ。
推定1850年ごろで、140✖️95cmで小さめの絨毯。
* * *
では、本家トルクメン絨毯の「トルクメン・ボーダー」を見てみましょう。
FINE ARTS MUSEUMS OF SAN FRANCISCO の
"Between the Black Desert and the Red Turkmen Carpets from the Wiedersperg Collection" より。
トルクメンはいくつかの支族に分かれていますが、これはヨムート支族のもの。
19世紀初めということで、かなり古いものです。
白のボーダーにムカデのような線がうねっていますが、ギザギザが少ないせいか、ゆったりした印象。
これもヨムートですが、どことなく可愛らしい印象のボーダーですね。
日本ではあまり馴染みがありませんが、「チョドール」という支族の絨毯。
こちらは「キジル・アヤク」支族の絨毯。
アフガニスタンでは「キジル・アヤク」は「エルサリ」支族の一部とされているようですが、
Bogolyubov というトルクメン研究者は、彼らはむしろ「テッケ」に近く、Merv に住むTekkeの縁戚ではないかと考えています。
この写真は、 ANTIQUE COLLECTORS' CLUB "ORIENTAL RUGS Vol.5 TURKOMAN" からの引用です。
上の絨毯とデザインがよく似ているのですが、この本では「エルサリ・グループ」の絨毯とされ、
その中でも「チョー・バシ」か「キジル・アヤク」か、決めかねている説明になっています。
* * *
さて、市場に流通しているトルクメン絨毯は、圧倒的にテッケのものが多く、
つぎにヨムート、エルサリ、たまにサリーク、、、という感じだと思います。
ただ手持ちの本を見る限りでは、Tekke でこのボーダーを使っている絨毯は見当たりませんでした。
こちらは前掲本のヨムート絨毯ですが、このボーダーについての説明があります。
それによると、
このギザギザの蔦のようなデザインは、しばしば「ボート」パターンと呼ばれるが、
ペルシャやコーカサスやトルコ絨毯でも使われている「パルメット」もしくは「クラウド・バンド」の変形である、
というのです。
うーむ、あるときは「トルクメン・ボーダー」、
あるときは「ボート・パターン」、
そしてまたあるときは「パルメット」や「クラウドバンド」の変形、、、
本当に「文様」って、雲をつかむような話で、なにが真実なのかよくわかりません。
正直なところ、文様は大の苦手の領域なのですが、
とりま、次回もボーダーデザインをめぐる記事をつづけます。