絨毯のヨコ糸は見えるのか?
「茶色の経糸でスイッチが入った」なんて書いていましたが、
ひょんなことから「台湾にスイッチが入り」、絨毯は放置状態になってしまってゴメンなさい〜。
気分を切り替え、経糸じゃなく「絨毯の緯糸」について少しばかり書きます。
* * *
まず質問。
「あなたは絨毯のヨコ糸を見たことがありますか?」
前回ご紹介したハゲハゲ絨毯なら、パイル糸がすっかり取れてしまっている部分があるので
タテ糸もヨコ糸もはっきり見えます。
しかし、堅気の市民生活を送られている日本のマジョリティーの方で
絨毯のヨコ糸を見たことがある人は少ないんじゃないでしょうか?
キリムは「タテ糸とヨコ糸」で構成されていて、
つづれ織りのキリムは「ヨコ糸が主役!」
表に現れているのは、ほとんどがヨコ糸です。
一方、絨毯は「タテ糸とヨコ糸とパイル糸」で構成されていて、
パイル織の絨毯は「パイル糸が主役!」
表に現れているのは、ほとんどがパイル糸です。
キリムも絨毯も、「フリンジの部分がタテ糸」なので
みなさん、タテ糸は見たことがあるはずです。
でも絨毯のヨコ糸は、パイル糸に埋もれてしまって、ほとんど見えません。
特に都市工房で織られたペルシャ絨毯やトルコのヘレケ絨毯は、
強くデプレスがかけられていますから(「ダブルウェフト」とも表現される)、
ヨコ糸は奥に存在するものの、表にはまず現れていないと思います。
でも、部族絨毯や村の絨毯はほとんどデプレスのないフラットな織り構造ですから、
絨毯の裏をまじまじ〜っと見つめると、ヨコ糸が見えてきます。
これも一応「いわゆるベシール絨毯」。
結構ゆがんでいて、遊牧生活を送るグループのものかもしれません。
エルサリ・トルクメンとも感じが違うので、ウズベク族のものかな?
スター・キッズの幼稚園〜! って感じで、個人的にはけっこう気に入っているんですけど。
ボーダーのクロス・モチーフや「スター・キッズ」の形がぜんぶ違っているところがラブリー!
古いのでけっこうこなれてます。
タテ糸は、ベシール絨毯おなじみのヤギの糸。
さて、絨毯の裏側です。
茜、インディゴ、黄、茶、アイボリーのパイル糸が、まず目に飛びこんできますが、
パイル糸とパイル糸の間からのぞく茶色の線ーーそれがヨコ糸です!
これはアフシャールのサドルバッグの裏側の写真ですが、
矢印で "weft" と示されている部分がヨコ糸。
このピースは、一段あたりヨコ糸を左右に往復させ、2本のヨコ糸が使われていますが、、、
このトルコのヤストゥックは、
一段あたりヨコ糸を左右に2往復または3往復させているため、
4本または6本のヨコ糸が使われています。
ヨコ糸がたくさん使われているので、ぱっと見るだけでヨコ糸の存在がわかりますね。
このように、部族絨毯や村の絨毯は、裏側を見るとヨコ糸の存在がわかりますが、
このベシール絨毯のように、表側もパイルがかなりすり減っていると、
うっすらと茶色い横糸が見えています。
* * *
余談ですが、パイルたっぷりの絨毯でも
色のついたタテ糸やヨコ糸を使ったものは、
全体の色調がどことなく違って見えます。
以前、茶色いタテ糸を使ったムットのキリムを持っていました。
カラシ色のヨコ糸のキリムでしたが、なんとなく茶色っぽく見えました。
ヨコ糸がすり減っていたわけではないのですが、
表に出ていないタテ糸でも、やっぱりなんとなく色調に影響するんだな、と思ったことでした。
わたしが好きなベシール絨毯は、なんといっても茜色に特徴があります。
他の絨毯の茜色とは、どこか、ちがう。
もしかしたら、タテ糸やヨコ糸に茶色の糸が使われているため、
パイル糸の茜に、どこか趣きを添えているのかもしれません。
茶色の経糸3 緯糸も茶色のベシールチュバル
「敬老の日とくしゅう〜!」で登場した長老のみなさま。
ハゲハゲ絨毯はパイルが無くなっているので、ふだん埋没している緯糸が現れて、緯糸観察にはうってつけです。
上がいわゆるベシール、下二枚がコーカサス。
コーカサスのヒゲじいは経糸も緯糸もアイボリーのウール。
コーカサスの梅干しばあちゃんは、経糸がアイボリー、緯糸はゴールドの細めの糸。
ベシール、これは恐らくエルサリ・トルクメンのチュバルですが、経糸は柔らかめのヤギ毛のようです。
写真の下方にほつれた緯糸が写っていますが、薄茶色のウールのようです。ほつれた先を見ると二本を撚り合せているのが分かりますね。
セルベッジも緩くなっていて、糸の感じがつかめます。
茶色の経糸2 BESHIRもしくはアムダリア中流 CLOUD BAND
ヤギ毛の経糸で、久しぶりにスイッチが入ったようなので何回か連載します。
日本で「ベシール絨毯」といっても知っている人はとても少ないと思いますが、
前回ご紹介した大型チュバルの表皮のように、
トルクメン族エルサリ支族、ウズベク族、アムダリア川中流周辺の村人などの複数のグループによって織られた
いわゆる「ベシール絨毯」は
欧米の絨毯愛好家たちに高く評価されている絨毯のひとつです。
当ブログ初公開になりますが、
"so called Beshir" (いわゆるベシール)もしくは "Middle Amu Darya" (アムダリア中流)の
Cloud Band Carpet (クラウドバンド=雲龍文様の絨毯)です。
大体の大きさは、147✖️265cm。
大きな絨毯は保管が大変なので、わたしが集めているのは小ぶりなラグが中心ですが、これは例外。
絨毯買物中毒の最盛期、eBayでデッドヒートのうえ競り落としました。
ベシール絨毯は欧米のラグ・マニアに絶大な人気があるため、こっちもハチマキ締めてかかりました。
蛇もしくは雲のように見える雲龍文様は、中国から伝わった説が主流のようですが、
「チューリップ模様の変形ではないか」などと主張する人もいます。
で、なぜこの絨毯を出したかといえば、やはり経糸にヤギ毛が使われているからです。
羊毛とは違うことがなんとなく分かりますか?
ヤギ毛の経糸を使うことにより、絨毯の耐久性が増すようです。
パイル糸に使われている茶色の糸は羊毛のようですが、
大型タイプのベシール絨毯のパイル糸は、ちょっとごわっとしたウールが使われることが多いようです。
(ベシール絨毯にはいくつかのタイプがあるので、柔らかい羊毛のものもあります)
ハードな使用に耐える絨毯のウールは、ソフトで滑らかな毛よりも、むしろ
この絨毯のようなごわっとした毛の方が向いているのではないかと、個人的には思っています。
絨毯のサイズが大きいと、やっぱり迫力ありますね。
茜とインディゴと黄色と、染めてない茶色の羊毛。
本当はこれに緑が加わると言うことないんですが、、、
緑が使われているベシールのフラグメント
Fine Arts Museums of San Francisco の1999年の図録から
これも緑が使われたクラウドバンド・デザインのベシール絨毯
こちらは「雲龍文様」というよりは「チューリップ模様の変形」と形容したほうがしっくりくるかも。
以前ご紹介したトルクメン絨毯の本にもクラウドバンド・デザインの絨毯が載っています。
説明文はこちら
この本はわたしが持っているトルクメン本のなかで一番新しく、
それゆえトルクメン絨毯の一番新しい研究成果を反映しています。
説明文も「ベシール絨毯」という呼称を使わず、「アムダリア中流」としています。
図録の写真なのではっきりとはわかりませんが、この絨毯の経糸はヤギ毛ではなく羊毛のようです。
絨毯の裏側の写真を見ればわかりますが、
織りはわずかにデプレスがかかる程度のフラットな織りですが、
経糸がヤギ毛であるため、実用に耐えると思います。
ただ「クラウドバンド・ベシール」という(自分だけが信仰している)ブランド力のため、
使いつぶす勇気はなく、巻いて大切に保管してあります。
我ながらバカだなあ、、、
私のお宝、なんとか次世代に手渡したいものですが、
日本ではなぜ「インテリアの壁」を超える絨毯好きが増えないんでしょうか、、、